【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！｜リアクション

【体育祭2nd】アニマル☆スター、熱く翔る！

　バニーガールに扮した巫部紫苑が競技から戻ってきた。
「ふぅ～、応援とか、走ったりしてお腹が空きました～」
　胸を抑え込んだ白い布地が揺れる。前方にいた人々は触れないようにと身を捩じって躱した。
　紫苑は自身で敷いたレジャーシートに座った。大型のリュックサックから縦長の物体を引っ張り出した。何事かと周囲の目が集まる。
「さあ、お楽しみのお弁当タイムです♪」
「え、あれが！？」
　一人の女性が目を剥いた。紫苑は気にすることなく目の高さにあった結び目を解いた。はらりと布が落ちると中から何段も重ねられた重箱が現れた。手早く一段毎に並べていく。十数箱の全てに隙間なく、おかずやお握りが詰め込まれていた。
「いただきます」
　紫苑は箸を使って気ままに食べていく。卵焼きを口にすると蕩けるような笑みを浮かべた。
「程良い甘さと出汁の風味が効いていて口の中が蕩けそうです」
「おー、すごい量のお弁当だなぁー！」
　胸に黄色い星を貼り付けた曖浜瑠樹が軽く仰け反った。前に屈み込むようにして中身を覗く。
「白いふわふわはポテトかなぁ。リンゴのウサギさんはお姉さんと同じだねぇ」
「私は黒ウサギさんなので少し違います♪　私と同じ、黒猫組の人ではないですよね。少し小さ過ぎます」
「オレはお星さまうさぎだよぉー」
　瑠樹は頭の上に両手を載せた。紫苑は頷くように笑うと重箱に目を向ける。
「同じウサギさんなのでお裾分けします。どれを食べてみたいですか」
「えーとねぇ。どれがいいかなぁ。そうだねぇ。これ、このお握りー」
「わかりました。具はいろいろなので、好きなのに当たればいいですね」
　別に用意していた紙皿にお握りを載せた。箸を渡したが手掴みで食べ始めた。
　瑠樹はお握りの中程で口を窄めた。身体が少し震えている。
「どうかしましたか？」
「う、梅が入っていたんだよぉ」
「あら、それは大変ですね。口直しにリンゴのウサギさんも、どうぞ」
　紫苑が箸で摘まんだリンゴを口で受け取る。顔を空に向けてシャリシャリと音を立てて平らげた。
「甘くてよかったよぉ」
「本物のウサギさんみたいですね」
　微笑むとタコウインナーを口にした。昆布締めを食べて蒲鉾を齧る。小気味よい音を立てて五本のエビフライを立て続けに食べた。
　落ちることのない食べる速度に瑠樹の目が丸くなる。
「すごい黒ウサギのお姉さんだねぇ」
　その一言に周囲もそれとなく頷くのだった。
　三十分と経たず、重箱の中身は空になった。紫苑は後片付けを済ませるとにこやかな顔で立ち上がる。
「残りの競技の応援も楽しんでいきましょう♪」
　人々の目は腹部に向かう。艶やかな腹部に不自然な出っ張りはなかった。
「そんなバカな……」
　人々の言葉を代弁しているのか。それ以上の言葉は聞かれなかった。
　紫苑は紫色のポンポンを持ち、大きな胸を弾ませて応援に力を注いだ。
　対抗するように雨崎楓香は白猫組に大きなエールを送った。選手達が集まり始めると組に関係なく、激しい動きで声を張り上げた。
「どちらもファイトー！　気合でチェストー！　アニマルスターでゴー！」
　熱意は観客も巻き込む。次の競技に期待した人々が自分なりの声援を送り続けた。