何でもない日を祝うパーティー！｜リアクション

何でもない日を祝うパーティー！

（ドレスコードはないですよね？）
　お気に入りの服に着替えて、宮祀智瑜は《cafe眠り猫》に再度、今度は正面から足を踏み入れた。
　先に、八百屋『宮祀青果店』の手伝いで、野菜の配達のため、《cafe眠り猫》を訪れた智瑜。
　その折にパーティーの話を聞き、一旦着替えに帰って現在に至る、である。そして、
「！　義弘先生！」
　智瑜はすぐ、賑わいの中に、桐島義弘先生の姿を見つけた。
　誰かと一緒かな？　と思ったが、どうやら、桐島先生はひとりであるらしい。
（何だか、運命感じちゃいます）
　そんなふうに胸を膨らませながら、智瑜は、桐島先生の傍へと歩み寄る。
「こんにちは、義弘先生！」
「む。宮祀か。意外なところで会うものだな」
「このお店には時々、野菜の配達に来てるんです。でも、そうですね。私もびっくりしました」
　先生がこういう場所に来るのが意外で、と伝えれば、ふむ、と桐島先生は唸った。
「そう驚かれるようなことだろうか」
「だって、パーティーとかあんまり行かないイメージです。あ、もしかしてカフェの常連さん？」
「いや、チラシを配っていた若者に押し負けてな……」
「なら、初めて同士ですね。私も、配達では来るけど、お客さんとしては初めてです」
　にっこりとして、智瑜は、「そうだ！」と、持参したものを手近なテーブルに広げる。
「これは……カットフルーツの盛り合わせか」
「はい、パーティーで食べやすいようにって。どうぞです」
「ん、頂こう」
「良かったです。えっと、私は……」
「菓子の類は、あちらから好きなだけ取ってきていいそうだ。飲み物は、スタッフに頼むといい」
　桐島先生にそう説明を受けて、智瑜は、紅茶をスタッフに注文し、焼き菓子を取りに向かった。
（マフィンもクッキーも美味しそうだし可愛いっ！　どれにしようか悩んじゃいます）
　暫し考えて、智瑜は、マフィンと淡いピンク色のハート形のクッキーを選び、桐島先生の元へ。
「紅茶はちょうど届いたところだが、食べたいものは見つかったか？」
「はい。先生にも、ほら、これ！」
　差し出したるは、自分に選んだのとお揃いのクッキーだ。
「ぐ……ピンク色のハート……」
「乙女心をくすぐりますよね！」
「私にはくすぐられる乙女心はないが……まあ、礼を言う」
「じゃあ、乾杯しましょう！　お祝いですから！」

「何でもない日、おめとうございます！」
　智瑜が元気よく言えば、「……おめでとう」と桐島先生も小さくカップを掲げる。
　それが嬉しくて、智瑜はくすりと微笑んだ。
「ではいただきます。……ん、このマフィン、見た目どおり味も美味しいです」
「クッキーは……イチゴ味だな」
「紅茶もすっきりした味で合います」
「コーヒーも中々だ」
　頷く桐島先生へと、智瑜は、にこやかに問いかけた。
「そういえば、先生。最近何か、嬉しいこととかおめでたいことがなかったですか？」
「うん？　そうだな……まあ、日々恙なく、それでいて退屈せずに暮らせているからな」
　めでたいかはわからんが有難いことだなと思う、と桐島先生。
「素敵なことだと思いますよ！　おめでとうございます！」
「あ、ああ……。その、そういう宮祀はどうなんだ？」
「ふふふ。実は今日は、とっても嬉しいことがあったんですよ」
「ほう」
「先生とこうして会えた事です！」
　今日の日に感謝です！　と締め括れば、桐島先生は、「……そ、そうか」と面映ゆそうに口元を手で覆った。
「そうだ、持ってきたフルーツも食べましょう。先生にも取り分けますね」
　うちの果物なので美味しさは保証付きです、と花咲く笑みを零して、
「ぜひ食べて下さいね！」
　と、手際良く皿に盛りつけたフルーツを桐島先生に手渡す智瑜。
　桐島先生は、もぐ、と瑞々しい梨を口に運んで、
「……ああ、美味いな」
　と、しみじみとして声を漏らした。