寝子島美味しい物フェスタ！｜リアクション

寝子島美味しい物フェスタ！

「……とまぁ、そんな理由で私はあちらの方に投票しようと思います」
「は、はぁ……」
　ちょうどその頃。都はリラにとっつかまり、色々と講釈のようなものを聞いていた。リラ曰く、あのちくわの着ぐるみ（注：すばる）が独自路線を貫いているとのこと。すり身でありながら、ゆるキャラとしてサンマさんと張り合おうとしている、と考えたのだろう。
　そんな話を聞きながら都が食べていたのは『ニャンコ焼き』と『子ネコ焼き』である。『ニャンコ焼き』は猫の顔をしており、中身によって模様が違う。一方『子ネコ焼き』は模様の変化はないものの、中身のバリエーションが豊富な一口サイズであった。
（難しい話だけど、まぁ、面白かったかな）
　そう思いながら都が視線を向けると、ちょうどちくわくんが通りがかったサンマさんと記念写真を撮っていた。そこへリラが『しらすサイダー』の瓶をちくわくんへ手渡していた。
「こちらは、ささやかですがプレゼントでございます」
　ほんのりしらすの香りのする『しらすサイダー』は既に栓が開けられていた。受け取ったすばるは内心、「子供達に囲まれている今、どこで飲もう……」と頭を抱えたという。

「あの、『寝子饅頭』のある屋台はどちらですか？」
「こっちですよ」
　来場者だろう老人に問われ、寝太郎が手を上げる。料亭旅館【薫風常葉】が出している屋台に並ぶ列を整理している所だったのだ。列の先では、綺麗に髪を結い上げた治が接客に応じている。
　休憩時間になり、『寝子饅頭』が気になった寝太郎は直前まで清掃を担当していた刀と共に並んでみる事にした。その最中、リッカルドがいろんな屋台を回りつつ吟味している姿を見かけた。
（町長って、威張ってそうなイメージがあるけど……リッカルド町長は気さくで、フレンドリーな良い人だねぇ）
　治はというと、次から次にくるお客様に丁寧に応じ、若女将として頑張っていた。彼女は商品に興味を持った２人に対し丁寧に説明してくれた。
「サンマのような香ばしい香りと、黒砂糖の上品な甘味が特徴で、中に粒つぶのしらすも入っています」
　試しに試供品を割ってみると、青臭さのなさに驚いた。意外という顔をしていると治はくすり、と笑う。どうやら臭みを取る方法は企業秘密のようだ。
「そっちのも美味しそう」
　刀が見つけたのは、緑の香りがほのかに広がる、黄緑色の饅頭だ。なんでも、旅館の名前から来ているそうだ。
「『常葉饅頭』は花の蜜を使用しています。その柔らかい風味と食感が特徴です」
　早速試食してみると、なるほど、と刀は微笑んだ。確かに、『寝子饅頭』よりも柔らかく、また、口当たりもソフトである。甘さが強調しすぎず、苦手な人でも食べられそうだ、と考えた。
「常葉、おすすめの屋台はどんなのがある？」
　饅頭を買いながら問う刀。治は少し考えて向かいの屋台を見た。
「あちらも、結構賑わっているようですよ」
「えーっと、ラーメンみたいだねぇ」
　寝太郎が振り返ると、丁度リッカルドが試食に来ているようだった。店主や来場客とにこやかに話す姿をみて、彼はこのイベントを成功させたいな、と強く思うのだった。