寝子高の一日｜リアクション

寝子高の一日

「ん～～～～～～」

　午前の授業が終わりを告げ、自分の席についたまま楡宮遠海は思い切り伸びをしている。
　そして、すっかりぺったんこになったお腹を擦って、お腹が減ったと小さい声で言う。どうやら遠海はお腹が空いてしょうがないといった様子だ。
　昔から痩せの大食いである遠海は、毎日昼時になればお腹が鳴ったりしているのだ。
　そうなると、今日のお昼は何にしようかなぁと考え始めたりするので、余計のお腹が空くと言う悪循環。だが、食べる事そのものが好きな遠海にはどうしても止める事が出来ないのだ。

「よし。今日は食堂で食べよう！」

　お腹が空いてやれないとばかりに遠海は席を立ち、足早に教室を出ていく。
　この寝子高と言う学校は中々に生徒数が多い。つまり、食堂に行く時間が遅くなればなるほど食べるまでにかかる時間は遅くなるし、そもそも良い物が残っている保証もなくなる。
　
　購買でサンドイッチとか焼きそばパンも悪くないかもね、からしのアクセントが効いたハムサンド、焼きそばとコッペパンが絶妙なハーモニーを奏でる焼きそばパンなんて考えながら購買に向かうと明らかにいつもよりも多い人だかりが出来ている。
　なんだろう？　と、首を傾げていると偶然近くで会話している生徒の話が耳に入る。
　それによると、どうも和菓子フェアなるものが開かれているとの事だ。
　和菓子と聞いただけで思わず遠海は、じゅるりとよだれが垂れそうになってしまう。女子高生が見せてはまずいような表情さえしてしまいそうだがお腹が空いているせいだろうか。いや、遠海の場合元からの性格と言う可能性も十分にあるかもしれない。

（和菓子と言えば……おはぎ、みたらぎ団子、ようかん、八つ橋、最中、どら焼きとか、えへへ）

　あぁ、そんな和菓子達を想像しただけでもう遠海の食欲は増していく一方である。このままではその内、口からよだれが溢れてしまうかもしれない。
　妄想を一旦打ち切って、遠海は覚悟を決めた目をする。勿論これは、戦いに赴く覚悟を決めた者の目である。そう。和菓子を食べる戦いへと赴く覚悟を。
　そこから当然のように和菓子を各種一つずつ購入した遠海は、その足で学食へと向かった。その顔に浮かぶのはただただ、やり遂げた戦士の表情だ。

　学食へと着いた遠海が頼むのは、まずは小手調べと言わんばかりに日替わり定食を頼み、それから幾つかの麺類を頼んだかと思えば止めにカレーまで注文をする。
　何という事でしょう。見事なまでの炭水化物の嵐だ。だが、遠海からすればこんなもの、毎日のように見慣れたものに過ぎないのだ。
　見た目は背が高くスラリとした鎌倉生まれの大和撫子と言わんばかりにお嬢様然とした印象の清楚な美少女だが、実際はご覧の通りの大食家であるのだ。

　とは言え、その食べっぷりは汚く食い散らかすようなものではなく、ちゃんとじっくり味わい、キッチリ食レポするようなタイプである為、そこまで忌避される事はない。驚かれる事は当然のようにあるけども。
　既に遠海の注文振りには食堂の人達も慣れたものなのか特に騒ぎになる事もなく、スムーズに注文は進んで行く。

「一先ずご馳走様でした」

　そして、頼んだ全てのメニューを上品に平らげ手を合わせる遠海。
　普段ならばここで終わりなのだが、今日はそうではない。和菓子フェアで購入した和菓子達が残っているのである。

　上品に包装のフィルムを剥ぎ、まずはとどら焼きを口に運ぶ遠海。その様子はやはり上品だ。とても定食と麺類複数とカレーを食べた後のようには見えない。
　そもそもの話、まるでガツガツした様子を見せずにあれだけの量を短時間で食べきるのは色々とおかしいのだ。七不思議の一つに認定されてもおかしくはないくらいには。

　だが、一番の恐ろしい点はこれらの和菓子を食べてすらまだまだ足りないと感じる点にある。
　一体、食べた物はどこに消えているのか？　いつかその謎が解明される時は来るのだろうか。

このページにイラストを設定する