暴け！　大人だけのヒミツの暗号｜リアクション

暴け！　大人だけのヒミツの暗号

　シロップたっぷりのホットケーキにココアフロートを楽しみ、お腹も大満足になった頃。
　桐島義弘がキョロキョロしながら入店してきた。
「なにやら賑やかな様子だが、今日は貸し切りだろうか？」
「いえいえ、ちょっとしたイベントが盛り上がってしまって」
　空いているカウンター席を勧めながら、文也は事情を説明する。
　いつもより小さなお客様が多いこと、ちょうど今特別メニューを振る舞ったばかりだということを掻い摘んで聞くと、義弘もこの盛り上がりに頷いた。
「そうだ、以前話した…………の、…………について……」
　義弘がコソコソと悪の秘密結社のボスに耳打ちをし始めるのを、龍樹は見逃さなかった。
（目つきが悪いし、いかにも悪役って感じだぜ！　ぜったいあやしすぎる……！）
　そうだった。いつからか大人が食べる特別メニューが気になって暗号を解いていたが、ここは悪の秘密結社だ。あの明らかな人目を気にした様子、絶対何かある。
（おやつなんかで、騙されないぜ！）
　龍樹はムテンを握りしめ、義弘の死角から様子を伺うことにした。

　まさか義弘が、悪の秘密結社と懇意にしていると疑いをかけられているとは露知らず。宮祀智瑜は祖父母のお手伝いで宮祀青果店の配達に精を出していた。
　次の配達は……とメモを確認すれば、時間が空いている。少しばかりの休憩はとれそうだ。
「……あれ？」
　お店の入り口に、不自然な紙切れが一つ。
　自分の配達メモはしっかり持っているし、一緒にしまい込んでいた何かが飛び出しただろうか。智瑜は慌てて拾い上げるが、そこには見覚えのない数字が並んでいた。―3046461629―電話番号でもなさそうだし、郵便番号でもない。ちょうどそこは、古書喫茶『思ひ出』の前だった。
「何かの発注番号かな？」
　そうだとしたら、届けなければ。休憩も兼ねて入ってみようと、智瑜はこの数字にどんな意味が込められているのか、わくわくしながらドアを開けた。
「すみません、外にメモ用紙が落ちてたんですけど……」
「メモ？　ははぁ、この眼鏡のお兄さんのかな？」
　文也がちらりと視線を送った先では、義弘がポケットというポケットを探っている。しかし、智瑜の持っているメモ用紙を見ると、探しものが見つかった安堵ではなく、焦りのような青い顔をしていた。
「みや、宮祀……中身を見たか？」
「え？　はい、数字が書いていたようですけど……何か数学の問題ですか？」
　もしかして、抜き打ちテストでもあるのだろうか。思わず中を再確認してしまったが、数式記号は何もなく、ただの数字だけだ。
「いや、わからないならいいんだ」
　義弘のあまりの動揺っぷりに、どんなメッセージを残したのかと興味が湧いたのか、月詠は推理小説キャンペーンの棚を指差した。
「今、この店では暗号を使うイベントが行われているんだが……それとは関係なさそうか？」
「わぁ、義弘先生も暗号づくりに協力してるんですか？」
「待て宮祀！　違う、そのメモは……！」
　遊び始める前にとメロンソーダをオーダーした智瑜は、数字を作った出題なんて義弘先生らしいなぁと微笑ましく思いながら、部屋中のヒントを探してみることにした。

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