９月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

９月の☆ハッピーバースデー

　９月３０日。今年で１５歳になる。
　篠原翠響は目覚めてからカレンダーをちらりと見た。
　顔を洗って、改めて鏡に映る自分をまじまじと観察する。

（誕生日が来て……変わったような変わらないような……まぁ、悪くないんじゃない？）

　黒目がちの瞳で、可愛らしい顔立ちをしており、自信に満ちあふれた１５歳の女の子というところ。
　着替えて、黒髪をポニーテールに結ったら、朝食の時間。
　メニューはこんがり焼いたトーストに半熟の目玉焼き、野菜サラダ、コーンスープと蜂蜜がけヨーグルトだ。
　もうすぐ全日本ジュニア選手権を控えた身としては、朝食にも気が抜けないのである。
　食べ終えたら歯磨きをして、寝子島スポーツセンターに行く準備をして出発だ。
　シーサイドタウンにあるマンションの駐輪場から自転車を出して、ペダルを踏み込む。
　９月の朝はさわやかな風が吹いて、スポーツセンターへのサイクリングにはもってこいだ。

（通い慣れた道だけど……誕生日を迎えると少し違って見えるような気もする）

　程なくして、スポーツセンターに到着。
　職員に挨拶をし、更衣室で練習用レオタードに着替えてセンター内の体育館に移動する。
　ストレッチをした後、道具を準備して、さっそく練習開始だ。

（常に姿勢を意識して……頭から指先まで真っ直ぐに……道具は体の延長だと思って……リボンの先まで集中……）

　６メートルもあるリボンが生き物のように舞い、ボールは翠響をめがけて飛び込んでくるよう。
　周りの体操仲間たちがため息をついたり、そわそわしている様子が視界の端に見える。演技はうまく行っているだろうか。

「……ふぅ」
　一通り演技を終えて、休憩。水分補給をしていると、にこにこ笑顔の仲間に囲まれた。
「何？」
　仲間のうちの一人が、なぜか派手なマントをかぶっている。
　彼らはせーの、とかけ声をかけて、一気にそれを取り去った。
「篠原翠響さん、お誕生日おめでとう！！」
　突然差し出された花束を受け取ると、パンパン、とクラッカーの音。
「翠響ちゃん、今日で１５歳になったんだよね！　なんか、演技にも美しさっていうか、成長が見られるなぁ……」
「あんたさぁ、いつからそんな上から目線になったわけ？」
「えーっ、ちょっとだけやってみたかったの！　昨日までは私が年上だったんだし、いいでしょ？」
　仲間のお願いに、翠響はぷっ、と吹き出してしまう。コーチは背を向けて笑いを堪えているらしい。
　仲間達は自分を祝ってくれたらしい、と事情が飲み込めて来て、翠響は顔が熱くなるのを感じたので、出来るだけ冷静に言葉を選んだ。

「……ちょっと恥ずかしいじゃない……ありがとう」