何が起こるの？　ちょっと不思議ＤＡＹ！｜リアクション

何が起こるの？　ちょっと不思議ＤＡＹ！

「ねえ、サキリ。あんたって、いつもこんなことしてるの？」
　後ろを歩く犬杜初の訴えに、振り返って、サキリ・デイジーカッターはにこりとした。
「買い物を済ませるついでだよ」
「にしては、結構歩くのね。こんな裏道まで」
「ああ、そうか。普通は、こう奥まったところまでは、なかなか来ないかもね」
　初の言に、サキリは成る程と頷く。
　寝子島のあちこちを適当に見て回るのは、半分、サキリの習慣になっている。
　しかもこの習慣は、フツウを守るパトロールのようなものだ。
　人通りのない道を敢えて選ぶのだってサキリにとっては自然なことだったから、初の指摘は新鮮だった。
「暗くなってきたけど、なんか、変なモノとか出たらどうするの？」
「その時はその時だよ。というか、そういう存在に出くわすことも、実際、たまにある」
「嘘！？」
　初の反応に、サキリは小さく苦笑する。
「だから、ついてこない方がいいかもしれないって言ったのに」
「だって、気になったんだもん……」
　今日、サキリは、久しぶりに《cafe眠り猫》を訪れた。
　カフェタイムの紅茶と軽食メニューはサキリのお気に入りなのだが、それは初も同じだったらしい。
　偶然顔を合わせて、何となくカフェでの時間を共にして。
　――ねえ、このあとはどうするの？
　との初の問いに、買い物ついでに少し街を歩くつもりだと伝えれば、興味を持ったらしい彼女が付いてきた。
「ね、本当に、何か出るの？」
「出るかもしれないし、出ないかもしれない。引き返しても構わないよ？」
「……一緒に行く。今ひとりになるの、それはそれで怖いし」
　苦い顔をして初が応じた、その刹那。
　ぼう、と、薄闇の中に青白い灯りが燈った。
　灯りの元を見遣って、初が「ひっ……！」と声を引きつらせる。
　サキリ達２人の前に立ち塞がったのは、タキシードを着た、ランタン頭の異形だった。
　ひょろりと背が高くて、タキシードの袖から覗く闇色の腕は細く、枯れ枝を思わせる。
　けれど、細い細い指の先の長い爪は、刃物のように鋭利だった。
　――ギ、ギギ……。
　軋むような声を漏らして、ランタン頭がふらふらと向かってくる。
　隠し持っていたナイフを抜き、脳内に空間を切り裂いて、サキリはろっこんを発動した。
　瞬間移動。
　相手が気付いた時にはもう、サキリはその背後を取っている。

「早速で悪いけど、チェックメイトだよ」
　再びろっこんを発動し、今度は、ナイフを赤く輝かせるサキリ。
　ひゅ、と風を切る音がした時にはもう、異形は、頭と身体を切り離されていた。
　その頭部――灯りの消えたランタンが、地に落ちる。
　闇色の身体は、身に纏っていたタキシードごと、崩れ落ちるままに夕闇の中に溶け消えた。
「……強いわね、相変わらず」
　感心したように、初が零す。
　その声にまだ恐怖の色が残っているのを見て取って、
「今日はもう戻ろうか。奴の仲間の気配もないしね」
　と、サキリは穏やかな声で言って、初へと笑みを向けてみせた。
　ナイフを、するりと仕舞う。
　あまりにも呆気なく片が付いてしまったことを、少し残念に思う自分がいた。
（おそらく僕は、心の何処かでこういう荒事を求めているんだろうな）
　だから、無意識のうちに、危険なことや不思議なことに首をつっこんでしまう。
　どうやら、そういう性分なのだ。
（それが、怪物に遭遇しやすい一因になっているのかもね）
　そんなことを考えながら、サキリは、急ぎ大通りに出ようとする初の後姿を、ゆっくりと追いかけた。

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