秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

☆寝子中生の放課後！

　ホームルームを終え、大掃除も終えた後。
　翠響は今日も寝子島スポーツセンターへと足を向ける。
　同級生たちが受験に向けて夏期講習に終われる中、翠響は８月中旬に行われた関東ジュニア女子新体操選手権大会で優勝を飾った。
　普段は天才肌でクールな彼女だが、さすがにこのときは嬉しくて涙が止まらなかった。
　でも優勝したからと言って安心してもいられない。
（次は秋の全日本ジュニア選手権）
　ガチで優勝を狙う気でいる。

「こんにちは」
「こんにちは篠原さん」
「こんにちは、先輩！」
　春の頃と違い、もう同級生の姿はほとんどない。
　けれどそんなことは気にならない。
　気持ちは既に秋へ向けて、ポニーテールを揺らしながら練習に余念がない。
　今日もコーチや仲間がため息を吐くような演技を披露する。
（けれどもまだまだ何かが足りない気がする）
　その足りないものは何なのか、考えてもわからない。
（才能だけでも、努力だけでも足りない何か）
　でも迷っていられない。
（ただその道を歩むだけ）
　高難度の技を決めポーズした翠響に、感嘆のため息と拍手が沸き起こった。

　学校が終わり、蒼は寝子中の校門を出た。
　まっすぐ家に帰ろう、という気にはもちろんなれない。
　例によってゲーセン『BooM』に制服姿のまま寄り道する。
（先生に見つかったら大目玉だけど）
　寝子高付近にあるので、先生の定期的な見回りもある。
　だがその辺のスリルもまたゲームのうち、周囲への目配りは怠りない。
　今回もうまいこと見つからずに済んだ。

　無事店内に入り、まずは小手調べに弾幕シューティングを始める。
　鬼のような弾幕を巧みにかわしつつ、あっという間に蒼はハイスコアを更新した。
「ま、こんなものよね」
　１プレイ１００円で、これだけ楽しめるのだからやめられない。
　それから格ゲーの筐体へ。
　向かい合わせの筺体に座った今度の相手は、二十歳くらいの綺麗なお姉さんだった。
（一人かな？　待ち合わせの時間つぶしとか？）
　そんなことを思いながらゲーム開始。
（え、予想外に強い）
　正直甘く見ていたが、このお姉さんが互角というか、一歩も引かない。
（いいじゃない！　……負けないわよ！）
　つい熱くなる。
　どちらが勝ってもおかしくなかったが、結局もう一歩のところでチャンスを潰され、蒼は負けてしまった。

　ゲームが終わると、お姉さんはにっこりと微笑み、口を開いた。
「いい勝負だったわね。また再戦しましょ」
　不思議に悔しい気はせず、蒼は素直に言った。
「うん、またやりましょう！」
　互いにまたの再戦を誓いつつ。
　蒼は清々しい気持ちで店を後にした。