秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

☆家に帰るまでが始業式

　羽生碧南は新学期早々のバスケ部の練習を終え、シャワーで汗を流した。
「あー、いい汗かいた。でも帰るまでにまた汗かいちゃうんだよね……」
　帰り支度をし、外へ出る。涼しい風が吹いた。
「あ、でも少し涼しくなったかも……」
　と思ったのもつかの間。
「やあ、羽生くん」
　聞き覚えのある声に振り向くと、鷹取洋二先輩が立っていた。
「せ、先輩、こんにちは……」
　一気に涼しさを忘れた。
「この前は暑中見舞い、ありがとう」
「あ……ど、どういたしまして」
　先日出した暑中見舞いのお礼を言われ、赤面する。
「返事は直接渡そうと思ってね」
「えっ？」
　洋二は鞄から葉書と筆ペンを取り出すと、その場で返事を書いた！
「やっぱり本人を目の前にしたほうが気持ちがこもるだろう？」　
「あ、ありがとうございます……」
　碧南は葉書を手に感動した。達筆なのか下手なのかよくわからない絵と文字だったけれど、先輩らしい。
「あ、乾くまでしまわずに持っててくれたまえ」
「……はい」
（あと半年で先輩は卒業。それまでに告白できるのかな？）
　先輩と話をしながら、楽しい中にも悶々とする碧南だった。

　図書室を出た北里雅樹が、校舎の外へ出た途端。
「あ」
「え」
　部活を終えた椎井莉鳥──幼馴染で、元カノで、いまは腐れ縁──とバッタリ出くわした。
（今帰りだったのか）
「……」
「……」
（知らん振りするのも、速足になるのも不自然だよな）
　なんとなくそのままの流れで、一緒に帰宅することになった。
　雅樹は見るともなしに莉鳥のほうを見る。
　湿り気のある髪。
　ボディーソープの微かな香り。
（シャワー浴びたばかりか……）
　夕焼けの中を二人並んで歩くが、無言。
（なんで私、腐れ縁の元カレと並んで歩いているのかしら……）
　莉鳥のほうでもちょっと座りの悪い思いを抱えている。
　まるで、なかなか飛び越えられないバーのように目の前に現れる彼。
　やがて、雅樹が口を開いた。
「今日も校長の話はシトラス・ガムダンでしょうもなかったよな」
　だが莉鳥の返した言葉は。
「宿題は終わらせたの？」
　まったくかみ合わない会話だ。
　以前は気を遣ったりしたけど、このかみ合わなさが今の二人のいつも通りだ。
　しかしこのいまの関係のほうが、双方にとって一番良好だったりする。
（でも、もう終わる）
（これが後、半年で終わるのね）
　会話は噛み合わないのに、奇しくも二人は同じことを考えていた。

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あとがき

担当マスター：天村花海
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ご参加ありがとうございました。
お待たせしてすみません、始業式のお届けです。

暑い中書いていると９月の秋らしさがよくわかりません。
でもやっぱり始業式はまだ暑いだろうなと思います。

お盆休みが終わった方も多いでしょうか。
熱中症にはくれぐれもお気をつけてお過ごしくださいませ。

それでは、またお会いできることを楽しみにしております。

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