秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

○寝子島小学校の始業式

「ぐぐぐっ！　にもつが重い」
　猫目と八重歯がかわいい夢真拓哉は、祖父母とともに暮らす旧市街の家を出た。
　工作や夏休みの宿題、小学一年生の拓哉にとって、夏休み明けの荷物は重かった。
「けど、久々に学校だー！　たのしくなってきたー！」
　歩きながら拓哉は、無限大の好奇心を発揮してあたりをきょろきょろ見回す。
「行くとちゅうにもだれかいないかな？」　
　すると、お兄さんらしきランドセル姿の男の子の姿を見つけた。

「今日から２学期、始業式ー！」
　眠そうな目、のんびりマイペースな４年生の曖浜瑠樹だ。
「校長先生、今回も着ぐるみ着てくれるかなぁ？」
　とつぶやいたのを聞いて、拓哉は首を傾げた。
「きぐるみ？」
　気になったけれど、瑠樹に追いつくには荷物がちょっと重かった。
　ので、別なことを考えた。
「学校についたら何しようかなー？」
　センセーにドーンッ！　てしたり、みんなと遊んだり……
　いろんなことを思いつく。
「夏休みも楽しかったけど、学校もワクワクする！」
　やがて校門が見えてきた。
「あ、校長センセー！おはよーございまーすっ！」
　校門では、子どもが大好きな雨宮花三郎校長が、笑顔で迎えてくれた。

「なんかメチャクチャ暑い……」
　６年生の佐藤瀬莉も、ツインテールを揺らしながら久しぶりに登校した。
（今日は校長先生の話、長くないといいなあ……）
　そんなことを思いながら始業式に向かう。
　すると、青い大きな着ぐるみが表れた。

「わぁ、マンボウくんだぁ！」
　ゆるキャラや着ぐるみが大好きな瑠樹は、始業式に現れた浜マンボウくんに目を細める。
「可愛いねぇ、和むなぁ……！」
（マンボウくん本人かなぁ？　それとも、校長先生が着ぐるみ着てるのかなぁ？）

　しかし拓哉は、マンボウくんを見るのが初めてだった。
「おぉ？　あれなんだろ……さかな？　かいじゅう？」
　青くて大きい着ぐるみに驚き、目を白黒させる。
　隣の子に聞いてみると、
「マンボウくんだよ。サンマさんのなかまで、すぐ気絶しちゃうんだ」
　と教えてくれた。
「へえ……」
　と頷いたものの、いまいちよくわからない。
「うわわっ！　こっち見た！　やっぱりさかな？　さかななの！？」
　驚いていると、さかなのようなマンボウくんがしゃべりだした。
「ぼくマンボウくんだよお～　うわあ、たくさんの子がいて緊張する……きゅう」
　気絶したらしいマンボウくんに、子供たちが笑い出す。
　すぐに「……きゅう」と言ってぶっ倒れたりするのを見て、瀬莉も笑いまくる。
「本当にマンボウくんそっくり～」
（ここの校長先生、結構面白い先生なんだよね）
　そんなことを思う瀬莉。
　しかし、何回目かに倒れたときに着ぐるみの口が開いてしまい、一瞬だけ人の姿が見えてしまった。
「……あれ？　あの口から見えてるのって……センセー？　食べられてる？」　
　見てしまった拓哉が青くなった。

「楽しいし癒されるよぉ、ありがとうなぁー！」
　そこで、瑠樹のろっこん、『ゆるゆる和みと恩恵の輪』が発動した。
　周囲がさらに和み、拓哉もなんだかリラックスできた。
「気のせいだったのかな。なんか、かわいいかも」
　
　マンボウくんが帰った後、みんなで校歌を歌った。
　瑠樹にとっては、ちょっと気を遣う時間だ。
（かなりの音痴だから、目立たないようものすごく小さく歌うよぉ）
　歌が嫌いなわけではないし、わざと変な声を出しているわけでもないけれど、なぜか合わない。
（楽しんで歌う人もそうでない人もいると思うけど、大きな声で歌える皆が羨ましいなぁー……やっぱりどうにかしたいねぇ……）

　その後校長先生が汗を拭きながら壇に上がって、お話をした。
「マンボウくんは忙しいので帰られました。さて、今日からいよいよ二学期ですね……」
　しかし、マンボウくんを見て笑いすぎた瀬莉は、話の中身を全然覚えていなかったりする。

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