秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

「今日から２学期。夏休みの宿題を忘れずに持って行かなくちゃ」
　夏休みが終わって学校に来た綾辻綾花は、ちょっと懐かしい気持ちになった。
　二年三組の担任は早川珪先生。
　ホームルームで綾花は、一番前の席で珪先生の話を聞いた。
「みんな、元気そうで良かった。夏休みは楽しかったかな？」
（先生の夏休み中のお話は興味津々です）
「僕は寝子高夜市で執事カフェをやったのがいい思い出だね。来てくれた人はありがとう」
（そうそう。あの時の先生素敵だったなあ）
　先生は何人かを指名し、一言ずつ夏休みの思い出を聞いた。
「ええと……シネマカフェでアルバイトしました。映画が見られる喫茶店で……」
（珪先生とばったり出会えて嬉しかったんでしたっけ）
　夏休みに会えたことを思い出しながら、改めて珪先生が担任で良かったと思う綾花。
「なるほど、いろいろ楽しかったみたいだね。また後で他の人にも聞かせてもらうよ。さて、宿題を集めようか」
　珪先生の言葉に従い宿題を提出して、綾花は忘れ物が無かったことにホッとする。
（今日から二学期が始まると思うと身が引き締まります。夏休みはのんびり過ごしてたから）

　羽生碧南は、エアコンの効いた二年九組の教室でようやく人心地ついていた。
（例によって校長先生のシトラス・ガムダン話は長かった……暑くて頭が痛くなっちゃった）
　部活で鍛えている碧南さえそうなのだから、倒れた人が多かったのも無理はない。
「よし、ホームルーム始めるぞ。皆席について」
　担任の浅井幸太先生がやってきて、様々な連絡事項などを伝える。
「さて、今度行われる体育祭の実行委員の選出についてだが、立候補する者はいないか？」
　浅井先生は皆の顔を見回すが、手を挙げる生徒はいない。
（体育祭の実行委員か……どうしようかな）
　と碧南が思っていたら、ふと浅井先生と目が合った。
「羽生、どうだ？　やってみないか」
　なぜか指名されてしまった。
「ええっ？」
（何で指名されるのよ！？　私体育委員もやってるんだけど）　
　鳩が豆鉄砲を食らった気分になったが。
（まあ……いいか。指名されたからには仕方がない）
　と思ってしまった。運動部系の性だろうか。
「わかりました。私なりに努力してみます」
（バスケ部と体育委員もあるし、なんか忙しくなりそうだけど……）
「引き受けてくれるか！　よろしく頼むぞ。それじゃ他には……」
　浅井先生はほっとしたように頷き、二人目を募っている。
（この分だと乙女ゲーできる時間がガリガリ削られそうで……でも、こんな風に委員会の仕事押し付けられるのって、学園モノの乙女ゲーではありがちよね）
　とまたしても脳内妄想にひたってしまう。
（そして、偶然素敵な先輩やクラスメイトと一緒に仕事をすることになるのよね……）
　うっとりしているうちに、皆宿題を提出していたようだ。
「羽生、宿題はどうした？」
　と先生に突っ込まれ、
「あ、はい！」
　慌てて碧南もプリントやルーズリーフの束を提出するのだった。

　職員室でいろいろ話を聞いた後、担任の上野睦子先生に連れられて、敦は一年十組の教室に入った。
　教室内にざわめきが沸き起こった。
　先生は黒板に敦の名前を書き、にっこりした。
「転校生を紹介します。穂村くん、自己紹介を」
「穂村敦です、よろしく」
　軽く頭を下げお辞儀をする。
「それじゃ、あそこの空いてる席に座ってね」
（……なんだか教室内がざわざわとうるせえ）
　転校生を見て騒がしくなるのは普通かもしれないが、なんとなく嫌な予感がしつつ、指定された席に座った。
（なんかみんながチラチラと俺を見てる、気がする。転校生が珍しいのか？）
　……その疑問が解けることになるのは、ホームルームの後だった。
　