秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

○寝子高始業式～シトラス・ガムダン～

　始業式。
　いつもの雨宮草太郎校長先生の話が始まった。
（校長先生のお話はやっぱりシトラス・ガムダン？　そういえば終業式も似たような話を聞いたような……）
　眠そうな人の中、真剣に校長先生の話を聞く時子。
（それほど大切なお話ということですね）

（毎回思うけど、これって拷問じゃない？）
　一年生の楡宮遠海は思う。
　校長先生の無駄に長時間のおしゃべりのことだ。
（シトラス・ガムダンとかいう偉い人の話をダラダラ長々と話して、本人はそれが楽しいのだろうけれども、聞かされる方はたまったものじゃないよね）
　しかも、夏休み明けの身体に暑さがこたえる。運動部の子ならまだいいだろうけど……
　バタン。
　……物音がしたほうを見ると、気分悪くして倒れた子がいるようだ……それも周囲を見ると一人ではなく、すでに何人か。
（私も倒れちゃうのかな？）
　不吉な予感に襲われ、慌てて別なことに考えを向ける。
（そういえば今日は学食が開くんだっけ。日替わり定食は何かな？）
　……そんなことばかり考えて、ひたすら長ったらしい校長先生の話を凌ぐことにする。

（シトラスなんちゃらの話、ぶっちゃけウザい）
　理緒はイライラを募らせていた。
（ひたすらおんなじことの繰り返しで、しかもダラダラとしゃべるから、本当に忍耐力が試されているとしか思えない）
　立っているだけで汗が止めどなく噴き出してくる。
　グラビアアイドルとして、水着姿で強力な照明に照らされて撮影に臨むこともしばしばな理緒は、多少の暑さには慣れているはずだが……やはりしんどい。
（紗月はもっと辛いだろうな）
　恋人は決して体力のある方ではない。
　……と、誰かが気分を悪くしたのか、倒れ伏したのが見えた。
　倒れた人をよく見てハッとした。
　目を閉じた白い顔は、さっきまで一緒に話していた紗月のものだった。
「紗月？！」
　思わず彼女のもとへ駆け寄り、名前を呼んだ……。
「紗月！　大丈夫？　しっかりして！」　
　しかし紗月の反応はなく、目も開こうとしない。
　そこへ担任の樋口弥生先生が来てくれた。
「失神してるわね。保健室へ運びましょう」
　ついて行きたかったが、弥生先生は優しく言った。
「大丈夫よ、保健の先生がついててくれるから」
　寝ている間自分がついていても役には立たない。
　そう思うと理緒は、頷くしかなかった。　