秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

☆寝子高の部活

（そういえば最近あんまり顔出せていないな）
　アイドルグループ「CitrusCat's」の一員である夢宮瑠奈は、なかなか軽音楽部に来れていなかった。
　部室棟２階の部室をのぞいてみることにした。
（誰かいるかな、いなかったら、掃除だけして帰ろうかな）
　と思いながら。
「誰もいないなー」　
　けれど掃除をしていると、何人かの部員が顔を出した。
　その中に後輩の遠海もいた。
「遠海ちゃん久しぶり、お茶しない？」
「はい。購買でパンを買ってきたので、先輩もいかがですか？」
「ありがとう、あたしもクッキー持ってきてるよ」　

　紅茶を入れながら瑠奈は話す。
「今年の夏は暑かったねー」
「そうですね」
　お菓子やパン、お茶を机に広げて、他愛ない話をする。
「今回の宿題難しかったー。遠海ちゃんは？」
「たくさんあって大変でした」
「そうだよねー、宿題がなければもっとのんびりできるのに」
　クッキーをつまみながら、のんびりと。　
「次の大舞台はどこだろねー」
「寝子祭でしょうかね？　曲、考えているんですけど」
　高校生は勉強に部活に忙しい。
　お茶なんかのんびり飲んでる暇があったら練習したほうがいいと思う人もいるかもしれない。
　でも。
（こんなのんびりした日常は、今の私には少なくなっているかもしれないけれど、だからこそ、意識して増やしたいよねー）
　瑠奈は思う、
（そんな満ち足りた世界を、なくしたくないなー）
　と。　

　夏休みが明けて、学校が始まった。
　だが２年生の椎井莉鳥は部活で学校に通っていたので、あまり久しぶりという気はしない。
　始業式の今日は朝練はない。
　始業式とホームルームを淡々と済ませた後、部室棟に向かう。
　女子更衣室でセパレートのウェアを着たうえで、その上にスカイブルーの陸上部Ｔシャツを着こむ。
　黒いショートヘアによく似合っていた。
　ちなみに色違いのＴシャツを何着か持っている。

　グラウンドに出て、走高跳に必要なバーやマットなど必要な道具を後輩と共に倉庫から出してくる。
「二学期も暑いですよねー」
「そうね」
　話しかけられて答える。機嫌がいい時も悪い時も、感情が顔に出ることがあまりない莉鳥だ。
　道具を設置して、他の部員と一緒にストレッチなどをしたりして体をほぐす。
　そしていよいよ二学期初の練習だ。
　Ｔシャツを脱いでセパレートウェアになったら、何度かスタート位置を確かめ、どのように走り出せばいいかを何度もチェック。
　それから実際に走って宙を跳ぶ。
（この前の合宿では、１m78の壁を破ったのよね）
　大分試行錯誤したので、そう簡単に記録更新できるとは思えないが。
（とりあえずやってみよう）
　思い切って2センチ上げることにした。
　心を静めて、頭の中で記録を越えたときのことをイメージして。
　目を開き走って、跳躍した。
　
　……からん。
　マットに身体が落ちた時、バーが落ちる乾いた音がした。
　あー、と後輩たちから残念そうな声が上がった。
　あと少しのところでバーをかすったようだ。
（そううまくはいかないか）
　だが諦めることなく、莉鳥は何度も挑んでいった。