秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

☆先生と一緒に

　森篠琳子の、学生生活最後の夏休みが終わった。
　既に寝子島信用組合への応募書類は学校に提出済みだ。
　学校を通じて、企業に応募書類が提出される。
　９月中旬には就職試験。それに受かったら来年春から社会人。同級生より一足先に社会に出る。
　夏休み気分のままはしゃいでいるような同級生たちを見ながら、そんなことを思っていた。

「それじゃ始めようかぁ、森篠。廊下に出て」　
　放課後、担任のウォルター先生と二人で教室に残った。
　就職試験の際に面接がある。
　実はそういうのがちょっと苦手なので、夏休みから先生に頼んで面接試験のリハーサルをやってもらっていた。
　試験の成績がいくら良くても、面接で躓いたら目も当てられない。
　想定される質問に対して自分の言葉で答えられないといけない。
　受験対策として中学のときに練習はしたけれど、今度は社会人としての採用面接なのだ。
　神経質なところのある琳子にはプレッシャーだった。

「森篠琳子さん」
　廊下に出て、身だしなみを確かめた琳子は、呼ばれた声に返事をしてドアをノックする。
「どうぞ」
「……失礼します」
　ドアを閉めて一礼、背筋を伸ばすことを心がけながら先生の前に進み出る。
「どうぞ、おかけください」
　静かに座り、視線は面接官である先生のネクタイのあたりへ向ける。
「うちの信用組合を志望した動機を教えてください」
「はい……」　

　そんなふうに一通り終わった後、ウォルター先生は言った。
「うん、その調子でいいよぉ」
　ホッとして、肩の荷が下りた。
「声は出ているし、誠実さも伝わると思う。あとは自己ＰＲをもっと思い切ってしてもいいかなぁ」
「自己ＰＲですか……」
「図書委員会具所属だけじゃなく、具体的なエピソードを入れるともっといいと思うよぉ。それじゃ、今日はここまでぇ」
「はい。ありがとうございます」
　先生に礼を言って教室を出る。

　御巫時子は、五十嵐尚輝先生に会いに理科室へ向かった。
（夏休み中も時々会いに来てましたが、夏休みが終わって先生と会える日が増えると思うと嬉しいですね）
　つい嬉しくて自然と笑顔になってしまう。
「こんにちは、御巫さん。おや、何かいいことでもありましたか」
　尚輝先生に言われて、頬を押さえながら時子は照れる。
「すみません。先生とまた沢山会えると思うと嬉しくて……」
「そんなことで笑顔になってもらえるなら嬉しいです」
　珍しく実験をしていない尚輝先生は、いつもより口数が多いみたいで時子は嬉しかった。
「９月ですがすぐに涼しくとはいきませんね。アイスコーヒーを淹れますね」
「ありがとうございます」

　コーヒーが湧くのを待ちながら、椅子を並べてのんびり過ごす。
（私の好きな時間です）
　実験器具のチェックをしている尚輝先生の横顔を見ながら話しかける。
「まだ熱中症に気を付けなくてはなりませんね。尚輝先生は大丈夫でしょうか？」
「大丈夫ですよ、昼間はあまり外出しませんし」
「学校で寝泊まりされてますよね。水分はとられていますか？」
「はい、脱水を起こしたら実験ができなくなるから水分を摂る時間を決めてタイマーをかけてます」
「食事もしっかりとられてますか？」
　湧いたコーヒーを冷凍庫の氷で冷やし、二人はゆっくりアイスコーヒーを飲んだ。

「明日はお弁当を作ってきますね。リクエストはありますか？」
「野菜以外で、食欲が湧くものなら何でも」
「……わかりましたけど、野菜も少しは食べてくださいね？」　
（何を作りましょうか）
　今から楽しみになる時子だった。

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