秋の扉をあけて｜リアクション

秋の扉をあけて

☆学食にて

「学食も久しぶりですね～楽しみです♪」
　掃除を終えた巫部紫苑は、早速学食に向かった。
　顔なじみの学食のおばちゃんがにっこり迎えてくれた。
　とりあえず、新メニューをチェック。
「きのこサラダに牡蠣フライ、ゆず焼きそばですか。全部頼んで……あとは定番メニューを幾つかと、デザートも頂いちゃいましょう♪」
　食べる事が好きで底無しの胃袋と食欲を持っている紫苑である。
「う～ん、やっぱり学食も美味しいですねぇ……学校が始まったって感じです」
　食事のスピードは速いのに、食べ方は無駄に優雅だ。

　佐藤英二は、学食に入りメニューを見渡した。
（久しぶりだな。迷うけど、やっぱり定番の味かな）
　冷房が効いた学食でラーメンを注文し、空いていた近くの席について食べ始めた。
「うん、うまい」
　満喫しているところに、下級生の女子が入ってきたのを見るとはなしに眺める。　
　
　入ってきたのは楡宮遠海だった。
（ＨＲも終わり、大掃除も済ませて、いい感じでおなかがすいてきたなあ）
　もう我慢できないとばかりに、足早に食堂へ入ってきた。
　昼食時で満席になりそうだったが、何とか席を確保する。
　そこは紫苑の近くだった。
　遠海の顔を見て、学食のおばちゃんが「え、しまった、あの子もいたんだっけ」というような顔をした。
（なんでそんな表情をするの？）
　首をかしげながら注文を始める遠海。
「日替わり定食ＡとＢ、寝子島丼、サンマ丼、サンマの蒲焼き丼、寝子まんま、サンマさんランチ、スタミナ丼、それから……」
　その他定番メニューを片っ端から注文する。
　注文の羅列が耳に入った英二は唖然として、失礼かなと思いつつ遠海を見てしまった。
（え？！　何人分……？）
「はいよ！」
　おばちゃんのほうを見ると、汗をかきながら厨房を右往左往している。
「あ、新メニューもあるのね。それも」

　席へ料理を運ぶと、今や紫苑と遠海のテーブルには満漢全席のような皿数が並んでいた。
　茶髪ロングヘアでたれ目、胸が大きい紫苑と、黒髪ショートヘアでまつげが長くスレンダーな遠海は見た目も好対照。
（まるで大食い対決だ……）
　英二だけでなく、周囲の生徒たちの注目が集まり、ざわめきが広がる。
　だが、天然ボケ気味でおっとりとしたマイペースな紫苑は、まったく意に介する様子はなかった。
　猫舌で冷たいものから食べだした遠海のほうは、やや周囲の視線に気づく。
（あれ、これってどんな風に見られてるんだろう……）
　けれどやはり気にすることなく、とんでもない食欲ぶりでそれらを残さずに食べまくる。

　一足早く料理を平らげた紫苑が口を拭いた。
「ごちそうさまでした」
（これで終わりか）
　気になって途中からラーメンの味がわからなくなっていた英二は、次の瞬間紫苑の口から放たれた言葉に固まった。
「あ、折角だから帰る前に購買に寄ってパンも買っていきましょう。あそこのパンも美味しいんですよねぇ♪」
（ま、まだ食べるの……？）
　英二は呆然と紫苑を見送った。

　去り際の紫苑の言葉は遠海の耳にも入った。
（購買かあ、私も寄って行こう）
　冷めた料理を食べながら、遠海は当然のごとくそう思ったのだった。