潜入！夜の寝子島マリンパラダイス｜リアクション

潜入！夜の寝子島マリンパラダイス

　朝。一部の水槽では太陽光が差し込み、まるでダイビングをしているかのように輝かしい水槽を眺めながら目覚める。それは、とある国にあるというホテルの、スイートルームのような光景だった。
　カワウソやアザラシに見立てたパンなどで簡単な朝食を済ませると、次はグループに分かれてバックヤードの見学や餌やりの体験が始まる。

　餌を準備する調餌室では、大きな冷凍庫の見学から始まり、貝や海老に魚といった餌の実物が金属探知機を流れていく様子を見て個体に合わせて餌の種類と量が決められるまでを見学する。
　バックヤードには衛生の観点からも手荷物を持ち込めず、撮影もできないいので、質問はできてもメモをとることができない。
　そのため、美野梨は大変残念に思ったが、できるだけ覚えて帰ろうと目に焼き付けるようにして作業を見学した。

　カワウソのふれあい広場では、トレーナーを確認したカワウソたちが、等間隔に並んだ切り株の上に一匹ずつ立って、そわそわと餌を待っている。補佐として入った武道は、カワウソと触れ合える喜びと、餌やり体験中はカメラが禁止な悔しさとで葛藤していた。
「君は、一番左の子に餌をあげてね」
「は、はい……っ！」
　手順は裏で聞いてきたが、なんとも緊張する。小魚を足元に狙って投げてあげたり、むき海老を小川の方に投げて追いかけさせたり。食べ終わってはまた切り株に戻ってきて、キラキラとした目でこちらを見る様子が、人に慣れているのもあるのだろうが、とても可愛らしかった。
　トレーナーの見よう見まねで、左手を前足が置ける高さに置き、その少し上で右手で餌を軽く握って拳を差し出せば、犬で言うところの「待て」のように、拳にキスをしてピタっと止まる。日中の餌やりを披露する場面では、撮影チャンスのために長めに待てをすることもあるようだが、武道のほうが先に折れてしまって、なかなか長い時間を停止させることはできない。
（あれ……？　でもカワウソと握手って、これじゃないよな？）
「あああの！　一般で来ても、カワウソと握手ができるって聞いたんですけど……！」
　聞かぬは一生の恥と言わんばかりの勢いで質問をすると、トレーナーは余程カワウソが好きなんだねと苦笑する。
「最後にこの子たちを連れて行く部屋が、握手のできる部屋だよ」
「よーっし、あとでおてて繋ごうなっ☆」
　うきうきしながらカワウソの餌やり体験をする武道だが、カワウソ好きの次は「おてて繋ぎなど可愛らしい単語を使うらしい」という噂が密やかに流れるということを、まだ知らない――。

　ベルーガのプールでは、トレーナーの登場にベルーガたちが前頭部のメロンを震わせながら、餌を催促するように歌い、そんな様子を修は微笑ましく見つめている。
　頚椎がイルカやクジラのように固定されていないことから、上下左右に首を振ることができ、頭がぷるぷると揺れ動く様は、コミカルなようにも見えて、とても愛らしい。
　日中では、野生の捕食姿を披露するために筒状の装置に餌をセットするのだが、健康チェックの時や芸の練習の時などは、トレーナーが餌をあげることもあるようで、修は大きなバケツを両手で運ぶ。
　初めこそ、熱心にトレーナーの話を聞いてクールな姿勢を崩さなかった修だが、実際にベルーガへ餌を食べさせるうちに顔を綻ばせていく。
「良かった、俺の手からでも食べてくれてる……！」
　とても人懐っこく、カナリアのような鳴き声は会話をしているようで、修の知的好奇心も刺激するが、それ以上に普段触れ合うことが難しい生き物と触れ合っているという感動で、年相応な顔を見せた。
「次は何を食べたい？　イワシかな、ゆっくり食べるんだぞ」
　クールな面影がやや可愛らしくなる様子など、もしかしたらクラスメイトでさえ知らないかもしれない。そんな修をとても微笑ましいと思っているのは――意外にも、口を開けているベルーガだったかもしれない。

このページにイラストを設定する