吊り橋幽霊、喧嘩成仏！｜リアクション

吊り橋幽霊、喧嘩成仏！

「あー、なんだかまだ口の中がざらざらするわ…」
　戦いを終えて気を緩めた尾鎌が、喉に残る感触に咳払いをする。
「だいたい、あんなの全然好みじゃなかったし、…可愛い子で口直しをしたいわね」
　物騒な事を言いながら辺りを見回す尾鎌は、正義に目をつけた。
「むむむむむ、むりですむりですむりです！！」
　怯える正義の肩を、尾鎌がガシリと掴む。
（逃げられないっ！！？）
　正義の顔が、幽霊よりも蒼白になる。
「命懸けで一生懸命戦ったあたしに、『ご褒美』くれるわよね？」
　鼻息荒く頬を染め、んちゅうと唇を伸ばして迫り来る尾鎌に、正義が悲鳴を上げる。
「ひぃいいいっっっ！！」

　――ちゅっ！

　可愛い顔して案外毛深いのねと思いながら目を開けた尾鎌は、身を呈して正義を庇ったラフ・コリーのホームズの凛々しい顔と、ふわふわの毛並みに相好を崩す。
「あら？　可愛い～！」
　その横では、尾鎌の鋼の腕から逃れた正義が泣いていた。
「ごめんよ、ごめんよホームズ…僕、もっと強くなるから……」
「皆、そろそろ引き上げるぞ…」
　修が尾鎌と正義に声を掛けると、ホームズがワン！と鳴き、尻尾を降って修に飛びつく。
　いつもは賢く紳士的で頼りになるホームズの甘えた仕草に、正義が目を丸くした。
「ごめんなさい、普段はこうじゃないんですけど…」
　謝る正義に、修が大丈夫だと答える。
「こういう事には慣れている。どうも動物に懐かれる体質らしくてな。先日も全身猫まみれになったばかりだ」
　修の事が気に入ったホームズが、ぺろりと修の顔を舐めた。
「あっ…」
　正義が青ざめ、
「まあ！」
　尾鎌が頬を染めた。
「どうした？」
　修の疑問に正義は激しく首を横にふった。
（言えない…間接キ…とか…言えない…）
　ちらりと尾鎌を見れば、内緒にしておくようにと人差し指を口に当てて、正義にウインクを寄越した。

　聖は、轟から吊り橋にも牧田にやられた者達がいると聞き、治療の為、一緒に吊り橋へと向かった。
　それを見た零も、同じ神職の者として放ってはおけないと後を追う。
　零と一緒に行こうとした月を、仮面の千唐が呼び止めた。
「どうも。添木組寝子島支部長です。お名前は？」
「――ウルフズベイン」
　月は、千唐にそう名乗ると、零の後に続いて山道を下りて行く。
「以後、お見知りおきを…」
　千唐はその後姿を、いつもの笑顔で見送った。

　先に吊り橋で戦った者達の怪我の手当てをした天野が、山から下りて来た者達に呼びかける。
「応急手当の道具持って来たよ。怪我人が居れば言ってくれ」
　轟が、遠慮する修を連れて天野の元に向かった。
　庚が、破れた半被を肩にかけて吊り橋に背を向ける武蔵に気づいて声を掛ける。
「行かねぇのか？」
「こんな傷、かすり傷のようなもんじゃよ」
　武蔵は笑ってヒョウタンをあおる。が、酒は戦いで使い果たしていた。
　しょぼくれた顔で肩を落とし、武蔵は月明かりに照らされた山道を降りていく。
（変わった親父だな）
　庚は見送りながら小さく笑った。

「先ほど、動物に好かれる体質という話を聞いたのですが」
　吊り橋で、山から下りて来た修に、どこから聞いたのか探偵助手の芽守が話し掛ける。
「ええ、まあ…」
　戸惑う修に、芽守が真剣に尋ねた。
「この猫を見ませんでしたか？」
　芽守が背中にザリガニ模様をした黒斑の猫の写真を見せる。
「名前はサリーちゃんというのですが…」
　見ていないという修に、芽守は残念がったが、すぐに気を取り直して他の者達からサリーちゃんの目撃情報を集め始めた。
　その様子を見ていた景貴とメグが、顔を見合わせて笑った。

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