サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～｜リアクション

サマー☆部活動のお時間です！　～運動部編～

　水上桜はクロールから始めた。手と足を推進力にして泳いでいく。クイックターンを綺麗に決めた。
　壁が迫ってきた。両手を突き出し、タッチターンを決めて平泳ぎへと移る。両手と両脚を滑らかに連動させる。前に噛み付くような息継ぎを繰り返して泳いだ。
　最後のタッチターンの直後、仰向けとなって両脚で壁を蹴った。水中でバサロキックを経て水面に浮き上がる。両腕を交互に回し、背泳ぎの体勢となった。静かな状態で五十メートルを泳ぎ切り、バタフライに繋いだ。
　両脚の力強いキックで上体を浮かし、両腕を羽のように広げて進んだ。タッチターンで折り返すと、最後の十メートルは自身を追い込むようなスパートを見せた。
　全ての泳ぎを試した。桜はプールの中に立つ。暗い表情で肩を上下させていた。
　息が整ったところでプールから上がる。誰かを探すように目を動かす。見つけた雨崎荒太郎に声を掛けた。
「雨崎先輩、クロールのタイムを計って貰いたいのですが」
「いいよ。飛び込み台は使うんだよね」
「そのつもりです」
「そうだよねー。底に頭を打ち付けないように入水角度には気を付けてね」
　のんびりとした口調は的確で要点を押さえていた。
　桜は飛び込み台に立った。荒太郎の合図で低い体勢となり、勢いよく飛び出した。
　水飛沫が上がる。水中を進み、浮上した瞬間に全力の泳ぎとなった。水を蹴散らし、クイックターンで加速。残り五メートルは息継ぎをしなかった。
　桜は荒い息の状態で見上げた。荒太郎は苦笑いでストップウォッチのタイムを見せた。
「三十四秒、そんな……」
　目は虚ろとなって唇が震えた。目に見える動揺に荒太郎は少しの間を空けた。
「水上さんはクロールが得意だからショックみたいだけど、やっぱり練習不足が影響したみたいだね。その不安が力みになってタイムに出たって感じかな」
「アドバイスを、ありがとうございます」
「一年生には時間がたっぷりあるんだから、焦らないで地道に頑張ろうね」
「先輩、少しいいですかー」
　プールの中にいた男子が手を挙げた。呼ばれた荒太郎は、じゃあ、と微笑んで走り去る。
「……平均三十二秒に。焦らないで、地道に」
　桜は大きく息を吸い込んだ。倍以上の長さで吐き出す。何回か繰り返して、よし、と小さく声を出した。
　両脚で壁を蹴ってクロールで泳ぎ始めた。