shine a light｜リアクション

shine a light

　キャラメルソースがけポップコーンの香りが、まだ舌のはじに残っているような気がしている。
　今日は映画館で、話題の特撮を観た。
　ハリウッド映画。王者ゴアラをはじめとする巨大怪獣たちが、人類を巻き込んで壮大にバトルするというお話だ。話的にはアラもあったが、怪獣バトルのスケール感は申し分なかったし、ファンサービスも満載で、観てスッキリしたのは間違いなかった。それになにより作り手の怪獣愛が随所にあふれていて、思わず目頭が熱くなったことも事実だ。
　そして今、購入したパンフレットの袋を提げ、佐藤英二はぶらぶらと海が見える高台を散歩している。まっすぐ帰るのが、なんとなく勿体ないような気がしていた。
　あれ、と思う。
　見覚えのある姿が、高台のベンチに腰掛けている。
　野々さん？
　やはりそうだ。野々ののこだ。
　日よけのついたベンチに座って、弁当らしきものをもしょもしょと食べている。
　でも、なんだか元気がなさそうだ。猫背気味だし、ぼんやりしている様子だし、口元には笑みがない。いつも星がまたたいているような瞳も、凪いだ海みたいに静かな――ように見えた。気のせいならいいのだが。
　それでも、声をかけずにいられようか。
　小走りになって英二は右手を上げた。
「野々さんこんにちは。元気？」
　どうしても声は弾んでしまう。
「英二くん」
　ふわりとののこは微笑した。
　そして発泡スチロールの黒いパックを、つぶしてゴミ箱に入れたのである。
「奇遇だね、買い物帰り？」
「ううん、僕は映画の帰り」
「『ゴアラ』？」
「あ、やっぱりわかる？　今日封切りだったんだ、さっそく観て……」
「なんだー、もう始まってたのかー。誘ってくれたら行ったのに」
　しまった、と英二は思った。
　以前ののこと、『ゴアラ』の話で盛り上がったことがあった。彼女は自分ほど詳しくなかったかもしれないけれど、興味は存分にある様子だった。
　だから今回のハリウッド版も誘うべきだったかもしれない。
　でも、ののことふたりだったとしたら、肘掛けを隔てた場所にある彼女の手を、意識してしまって映画どころではなくなっていたかもしれない。
　逆に自分がのめり込むあまり、ののこそっちのけで涙ぐんでしまったとしたら――。
　そう考えてみたら今回は、独りで行って正解だったのかも。
　特にののこに恨みがましい雰囲気はなかったので、ところで、と英二は話題を変えた。
「夏休みの宿題って片付けた？」
　するとそれまで動きが緩慢ののこが両手で、頭をかかえるようなポーズを取ったのである。
「それを言われると……つらいなあ」
　そう口では言ってはいるものの、ののこは舌を出して笑っていたりして、普段の彼女のイメージにずっと近い。『夏休みの宿題』という現実的なキーワードが、ののこの心を揺すって起こしたのだろうか。
　それが嬉しくて、思わず英二はこう告げていた。
「よかったら寮の僕の部屋で一緒に宿題する？」
　けっこう大胆な誘いをしていることに気がついたのは、口に出してしまってからのことだ。

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