あかいヤドリギ、ニャ！｜リアクション

あかいヤドリギ、ニャ！

　まだ、もうちょっとほしいニャー……と、ようやく暑さ対策という言葉を学んだ猫が、
　木陰で途方にくれていた日。
　ご協力者の方から声をかけてくれることとなる。

　事故による後遺症事情を承知してくれている、すっかり顔馴染みな監視員さんのいるプールもあと何回行けるか、とよぎれば、後悔無きよう最後まで遊び尽くすべく本日プールへ向かう道中な白真白。
　その道すがら、二足歩行のにゃんこを色違いの双眸が見つけた。

「お？　かーわいー。こんなところでどうしたの？」
「ニャ？　……にゃふにゃふー……、あのあのっ、あれ、取ってほしーのニャー」

　猫の額や首筋をもふもふ、なでなでする真白に、天の声！　とばかりに猫の表情筋の範囲でパッと顔を輝かせるにゃっぱち。
　あまりに自然な流れにてお互い自己紹介後、かくかくしかじか耳を傾けている、が。
　あえて今更述べよう。本来驚くかツッコむべきところであると。
　猫が立っている、人語を流暢に喋っている、という箇所特に。
　しかして真白、例にもれず不可思議体験にすっかり耐性ついていれば、むしろ二足歩行な猫ちゃんだー、なノリで自ら巻き込まれにきたようなものであった。
　困っている異界人たちからすれば救世主である。今後も乞うご期待である。

　『ふむふむ』とあかいヤドリギのある木を目に留めながら頷いていた真白、カードの新戦略を練っている時のように腕組をし唸り出す。

「ふーむ、心から寒いと思わせないとだね。なかなか難しいなぁ」

　８月も後半だが、本日も少し歩いただけでもう汗だくになるほどだ。
　屋内であれば冷房をガンガンに効かせたり、冷蔵庫を使うなどすぐに浮かんだが、なにぶんヤドリギは太陽の下であり。

「あ、そうだ！」

　両手をパンッと鳴らせた真白の表情から、名案得たのが猫の目からも見て取れた。
　期待に満ちた視線を向けて来るにゃっぱちへ、ちょっと待っててねー、と告げては急いでどこかへ消えていく真白。
　程なくして戻って来た彼女に、まぁるい猫目が更に丸くなった。

「ニャニャ？　さっきと毛色が違うニャ！　ニンゲン、だっぴが出来るのニャ？」
「脱皮。いや違う違う、そこの公園で服を着替えてきたんだよー。ちょうど水着を持ってたからね！」

　まるでカラを脱ぎ捨てたように、照りつける光の下現れた真白は輝いて見えた。
　特に通りすがっちゃった一般男性の目には。
（どのように、と言うのは省略としよう。着替えた少女の姿を括目せよ。自ずと答えを得ん。多分）
　すっかり夏らしくも涼し気な姿となった真白のその手には、パンパンに膨らんだビニール袋が揺れている。

「コンビニでアイスと氷、いっぱい買ってきたー。
　アイス食べて、氷は体にくっつけたりとか効果ありそうだなって。
　これだけ暑くても、体の中と外から同時に冷やせばいける気がする！」

　猫の待つ木陰に入れば、ふーと一息ついてから。

「それじゃ早速いただきまーす」

　少し日差しに当たっていただけですっかり火照った体に、喉を通って行くアイスの冷たさが沁み渡る。
　んー冷たいー、と至福の笑みが浮かぶ。

「あ、にゃっぱちも食べる？　氷の方が平気かな？」
「のど乾いたニャー」
「うん、じゃこっちにしよっか」

　外側から冷やす用にいくつか抱えていた氷の、小さめなものをにゃんこに手渡してやった。
　外気の熱で溶けだしている氷の周りを、ぴちゃぴちゃと美味しそうに舐める姿に目を細めながら、真白も食べる。じゃんじゃん食べる。
　時に大きなお胸につるつる滑って、抱きしめている氷を取り落としそうになりながら。

「さ、さすがに日陰でこうやってると冷えてきたかも」

　ただでさえ小柄な体の割によく食べた、というアイスの空箱の量。
　そして素肌を氷で冷やすという根性の下、すっかり下がった体温に真白の口は心からの言葉を紡いだ。

「ちょっと寒い……」

　小さな呟き。しかし本気の気持ち。
　真白の頭上のヤドリギが震え出したかと思えば、ポロッ。

「ぅわっぷ！　……あっ、よかった、ヤドリギ落ちてきたよー！」

　自分の頭にもさっとした感触を受けて、慌てて両手で掴んだのはまさに真っ赤な葉っぱたち。
　これでオッケーだよね？　とにゃっぱちへ確認がてら手渡してやれば、にゃーにゃー喜びの鳴き声が。

「よかったよかった。じゃあ解決したし、このままプールへ行こうかなっと、……あ゛」
「うニャ？」
「……アイス食べ過ぎて頭がキーンと」

　こめかみ押さえしゃがんだ真白の額に、暫く肉球がなぐさめるようにもきゅもきゅ当てられているのだった。

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あかいヤドリギ、ニャ！

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