８月の☆ハッピーバースデー｜リアクション

８月の☆ハッピーバースデー

　8月10日。何となく家に居られなくて学校のプールに来た環的子。
「今日が開放日でよかったぁ」
　泳ぐでも遊ぶでもなく、ぼんやりと水の中をちゃぷちゃぷいったりきたりしてみた。暑い日にはうってつけ。気持ちいい。
　と、ビート板で何往復も熱心にバタ足をする少女が。菊地まなだ。カプギアの新作パーツ（水中用）を試そうとおもったが、思った以上に人が多いのでこちらに切り替えた模様。
（あ……）
　まなにとって、見慣れた人が。
（校庭や公園でカプギアやっている人だ……）
　多分、まなよりも年上。けれど、物怖じせず声をかけてみる。
「ちわ」
　ぼんやりとしていた的子は、はっとして振り返る。よく遊ぶ公園で見かける子だ。
「わ。こんにちはー」
「え、と……」
　まなは、自分の水着に書いている一年、菊地、という文字を指さし、そして指でゆっくりとビート板に自分の名前を『ま、な』と書いて見せた。
「まな……ちゃん、だね。私、的子」
「ま！」
　同じ『ま』から始まるんですね、と好印象を抱き、まなは嬉しそうにぱしゃぱしゃと水の中で飛び跳ねる。
「平仮名だと『まとこ』だから……うん、『ま』でお揃いだね」
　よかった、通じた。まなは、うんうんと何度もうなずいた。
「公園にいたって事は……カプギアやってたり、する？」
「かぷぃぁ！」
　うん、と大きくうなずき、自分もやってることをアピールする。
「私もなんだ！」
　一気に親近感を覚え、的子は笑う。それから、二人でカプギアのことをしばらくプールの端のほうで話し込んだ。楽しくて、いつまでも話せそう……。　どれくらい話したろうか。ふと、的子は打ち明ける。
「丁度、今日で11歳なんだけど、何かじっとしてたら色々考え事しちゃって……だから、ありがとう。声、かけてくれて」
「おー……」
　誕生日なんですか？　おめでとうです、と思いを込め、まなは小さく拍手をした。
「ふふ、ありがとう……」
　そろそろ上がろうか、と二人で更衣室へ向かい、着替える。ふと、まなが的子の肩をたたいた。
「え？」
「こ　れ」
　是非使ってほしいと、水中用の新作パーツを差し出す。
「ええ！？」
「はぴば！　ま！」
　ハッピーバースデー、まとこちゃん。まなは精いっぱいのおめでとうを込め、的子の手にカプギアのパーツを握らせる。
（ああー！　そんなつもりで誕生日って言ったんじゃないんだけど……）
　にこにこしているまなに、問う。
「……本当にいいの？」
　こくこく、とまなは頷く。
「ありがとう……！」
　1年生の子に気を遣わせちゃった……！？　焦る的子。
（早くお礼……返さないと！）
　一緒に帰る道の途中、自販機を見つけて的子は冷たいジュースを2本購入した。
「はい、まなちゃん」
　目をキラキラさせて、まなはいいの？　と首をかしげる。ちょうど喉も渇いていたところだ。
「あ　り　がとぅ！」
「ついでに乾杯してくれると嬉しいなー、なんて」
　大きくうなずき、まなはジュースの缶を的子のとかち合わせ、
「かっぱーい！」
　と発声した。二人でジュースを飲み終えると、まなはもういちどお礼を言って、
「ば、ばい！」
　迎えに来た家族のほうへ駆けていった。
　帰ってくまなの後ろ姿を的子は見送る。
（ちらっと見えたあの人は……家族、かな？）
「……私も帰るかなぁ」
　じわじわ、セミの鳴き声が聞こえる。日の傾きかけた帰り道。少し、足取りは重いけれど、素敵な友達ができたことを胸に抱いて。

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