【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【勝ち抜き腕相撲バトル！】１

　北里雅樹と椎井莉鳥は、並び歩いているくせにそっけないような、奇妙な雰囲気で歩いていた。
　とうに終わった元恋人ながら、腐れ縁はなかなか切れず、気が付いたらまたふたりで夜店巡り。
　話をしてもまるで噛み合わない、傍から見れば殆ど意味不明の関係だ。
（けれどもそれも来年で終わるんだよな）
　表面上は飄々としている雅樹だが、心の内はあまり晴れない。
（もう終わったんだ、今更何を考えてるんだ）
　横目で莉鳥を見る。
　彼女も表面上は飄々としていながら、どこか上の空だった。
（この前のネコフェスの時に感じた、あの感情は一体何だったんだろう？）
　心の片隅に残る微かな傷。
（自分の感情がわからない……）
　そんな二人の耳に、威勢のいい声が飛び込んできた。

「さあ、挑戦者はいないか！？」

　相撲部顧問の巨漢・吉田熊吉先生が野太い声を張り上げている。
　熊吉先生の出店は、腕相撲バトル。
　まず、二人の参加者が腕相撲し、勝ったほうが暫定チャンピオンとなる。暫定チャンピオンは挑戦を受ける側となる勝ち抜き形式だ。
　最後まで勝ち残った人には熊吉先生と戦う権利が与えられる。
　打倒！　熊吉を目指す猛者たちが、わらわらとあたりを取り囲んで様子をうかがう。
　みな、最初に出ると、最後まで勝ち残るのに戦う回数が増えるので不利だと考えているのだ。
「ふーむ。だったらこっちから指名させてもらおうか！」
　あたりを見回した熊吉先生、準備の手伝いを（捕まったので仕方なく）してくれた雅樹の顔を発見する。
「北里！　来い！」
「え？」
「お前がトップバッターだ！」
「俺にバトルに参加せよと言いますか？」
　正直言って、腕っぷしには自信がない。
　うっそでしょ、という顔をしてみせるが、熊吉先生は容赦ない。
「対戦相手は、そうだな、お前の連れがいい」
「椎井ですか！？」
「え、私？」
　抗議の声を上げる間も無く、あれよあれよと向かい合わせに座らされ、手を組みあってスタンバイ。
　莉鳥と見つめ合いながら、雅樹は大急ぎで頭を巡らせる。
（椎井はまがりなりにも陸上部員でアスリート。こっちは肉体労働に不適。真っ向から勝負して叶う気が全然しない。なら……）
「レディ……」
　熊吉先生が組んだ手を包むように手を置く。
「ゴー！」
　熊吉先生の手が離れた瞬間、雅樹はいきなり、
「わっ！」
　と叫んだ。相手をビビらせその隙に押し倒す作戦……のはずだった。
　しかし、次の瞬間、雅樹の手の甲はびたっと机に押し付けられていた。
「猫だましのつもり？　そんなのはお見通しよ」
「わかっていた……こうなることは最初から火を見るより明らかだった。でも、あがいてみたかったんだ」
　無駄なあがきだったが……と雅樹は立ち上がる。
「俺の分まで頑張れ、椎井。応援してる」
「勝っちゃったから仕方ないわね。ほどほどにやってみるわ」