【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【勝ち抜き腕相撲バトル！】２

　ほどほどに、と言った莉鳥だったが、有無を言わさず先手必勝、短時間でけりをつける電光石火のスタイルが功を奏し、並居る挑戦者をバッタバッタとなぎ倒していくこととなった。
「いけっ、椎井！　そこだ！　やった！」
「……ふぅ」
　勝ち抜けば勝ち抜くほど観客は増え、歓声が大きくなっていく。
「なになに？　勝ち抜き腕相撲バトル？」
　この歓声を聞きつけてやってきたのが、志波拓郎と高梨彩葉であった。
「おー、見ていてなんか楽しそう！」
「対戦形式で、最後までかてたら吉田先生とたたかえる、のか？」
「拓郎、やってみる？」
「……少し……気になる、かな？」
「うん、出てみなよ！　応援する！」
　そこまで言われたら、彼女に格好いい所を見せたくなるのが男心というもの。
「ちょっと、腕試し……してみるよ」
　進み出た拓郎に、莉鳥は静かな視線を送った。
「挑戦、受けるわ」
「よろしくお願いします」
　挨拶して相手を観察する。
　腕相撲は腕だけの筋肉にあらず、踏ん張る足も重要だ。
　細身な莉鳥相手なら、持久か速攻か――。
（たぶん、腕力は自分の方が上。向こうは持久に持ち込まれたら厭なはず）
　スタンバイ。
「レディ……ゴー！」
　やはり莉鳥は先手必勝で来た。この初撃を耐えさえすれば――勝機はある。
　拓郎は下半身に力を込めて踏ん張った。
「拓郎、頑張れ頑張れー！」
　彩葉が大声で応援してくれている。
（色々考えても最後に物を言うのは……彩葉さんの視線と、鍛えた、筋肉……っ！）
　拓郎が押す。
　莉鳥の腕が押し負けて傾いてくる。
「盛り返せ椎井！　負けるな！」
　雅樹の応援に、莉鳥はひとこと、
「無理」
　と言って、ぱたんと負けた。
「ありがとうございました」
　試合を終え、礼儀正しく挨拶する拓郎に、莉鳥は肩を回しながら答える。
「疲れてきていたところだったから丁度良かったわ。私に勝ったんだからチャンピオンの座、守ってね」

　この莉鳥の言葉と、彩葉の応援も相俟って、拓郎はその後も勝ち残った。
　とうとう熊吉先生と対戦することになった拓郎は、改めて気合を入れなおす。
　ここまで来たらもう、神頼みしかない。彩葉は両手を組んでお祈りする。
「拓郎が勝てますように」
　拓郎と熊吉先生は、机に肘をつき互いの右手を組みあった。
「よろしくお願いします」
「手加減はしないぞ」
　レディ、ゴー！
　セコンドを務める雅樹の掛け声と同時、全身の力を腕に込める。
　二つの力は均衡し、ぷるぷる、筋肉が震え血管が浮き出る。
「拓郎ー！　頑張ってる姿もかっこいいぞー！」
　応援に、拓郎は歯を食いしばった。
（く……先生、やっぱり強い……）
「やるな……だが、体育教師の矜持にかけて……負けんわああァァ！！！」
　吼えたと同時、熊吉先生はドーン！　と拓郎の腕を押し倒した。
「勝者！　熊吉せんせーーーーい！」
　雅樹が熊吉先生の右腕を高々と持ち上げた。
　負けた拓郎は悔しさもあるが、圧巻の腕力の洗礼を受けて爽快さも感じている。
「拓郎！」
　彩葉が駆け寄って来て拓郎の手をぎゅっと握った。
「頑張ってる姿がとってもかっこよかった」
「あ……うん」
　拓郎はすっかり照れて赤くなった。
　ひゅーひゅーとあたりから口笛が飛んだ。
　彩葉はちょっぴり誇らしい気持ち。
　先生には負けたけど、私のカレは結構強い！