【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【あやこさんの手作りクッキー屋さん】１

「あおいさん、もしよかったら一緒にどう？　イートインでクッキーと紅茶が楽しめるそうだよ」
　鴻上彰尋は七夜あおいを誘って、事前準備を手伝った白沢絢子先生の夜店、「あやこさんの手作りクッキー屋さん」へやってきた。
「ん～、クッキー、いい匂い！」
　あおいは目を閉じ、香ばしい焼き菓子の匂いを味わっている。
「いらっしゃい。ゆっくりしていってね」
　白沢先生はいつも通りの柔らかな笑顔で、彰尋とあおいを迎えてくれる。
　ここでは、白沢先生特製の手作りクッキーを可愛らしいラッピング小袋に入れて販売されている。
「ええと……」
　彰尋はイートイン用と、家へのお土産用で、クッキーの小袋を２つ購入。
「私も、これとこれ」
　あおいも同じように２つ。
　サービスの紅茶もいただき、イートインスペースに腰かける。
「ラッピング、かわいいね」
「そうだね。味は色々と入っているのかな？」
　開けてみると、３枚ほど違う種類のクッキーが入っている。
　プレーンとアーモンド、猫型のクッキーだ。
「あおいさんも同じかな？」
「違うみたい。私の方はチョコチップとアイスボックスとゴマだよ」
「あおいさんはどれが好き？　俺はチョコチップが好きなんだけど、プレーンやアーモンドも美味しいよね」
「私は猫が欲しかったな。ねえ、私のチョコチップと、彰尋くんの猫クッキー、交換しない？」
「いいよ」
　お互いのクッキーを交換して、それぞれ頬張る。
「美味しいね」
「そうだね。たぶんそれ、俺が手伝ったクッキーだと思う」
　すこしドキドキしながらそう告げると、あおいは目を丸くして、それからニコッと笑った。
「わあ、そうなんだ！　さっすがだね」
　彰尋は嬉しかった。
　クッキーを美味しく食べてくれる彼女との時間は、こんなにも、温かい。

◇

　志波拓郎と高梨彩葉が恋人になってどれくらい経ったろう。
　今宵はいっしょに夜店巡りデート。
　あちら、こちら、と見て回っている。
「夜の学校って新鮮で、何だかワクワクするね～」
　すこしテンション高めの彩葉に引っ張られるようにしながら、拓郎は訥々と答える。
「夜の学校って不思議な雰囲気だよね……見てるだけで楽しいけど……ん？」
「むむっ！　何やら甘い匂い！」
　クッキーの気配がする……！！
　ふたりは顔を見合わせる。
　陸上部で如何にもスポーツマンという体つきの拓郎だが、じつは意外に甘党でスイーツには目がない。
　彩葉の方も製菓部所属で、お菓子は作ることも食べることも大好き。
「あやこ先生、クッキーのお店を開いてたんだー！」
「せっかくだし、お茶もしていかないか？」
「うん！　これはぜひ食べていかなきゃ！」
　こんなときも気が合ってしまう二人である。
「あら～高梨さん、いらっしゃい。志波君もいっしょなのね～」
「白沢先生、こんばんは。いい匂いですね」
「そうでしょう？　みんなが幸せになあれ、って心を込めて作ったから美味しいわよ～」
　製菓部顧問の白沢先生は、ふふ、と笑ってイートインコーナーの空いている席を勧めてくれた。
　彩葉と拓郎はサービスでいただいた紅茶を片手にクッキーを食べ、ホッコリする。
「クッキー、美味しいね～」
「自分は、チョコチップのサクサクが一番好きかも？　彩葉さんは、何が好き？」
「私はこの猫さんのクッキーが好きかな、見た目も可愛いし味も美味しい！　チョコチップも美味しいよねー」
「うん……どれも美味しい……！」
　拓郎が目を細めてクッキーを頬張るその横顔が、彩葉にはとっても愛おしい。
「……何か、変？」
「ううん！　すっごく美味しそうに食べるなあ、と思って」
　微笑むと、拓郎は照れ臭そうに鼻の頭を掻いた。
「……後で食べるようにお土産も買おうっと」
「あ！　私も！」
　彩葉も便乗して、クッキーセットを二つ購入。
　先生が「幸せになあれ」と心を込めてくれたクッキーだ。
　きっといいことがあるに違いない。