【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる｜リアクション

【寝子高夜市】夏の宵、きらきらめぐる

●【あやこさんの手作りクッキー屋さん】２

（白沢先生の手作りクッキーかぁ……）
　三猫だんごのほかにも、様々な夜店をみて回っていた恵御納夏朝は、あやこさんの手作りクッキー屋さんの前でふと足を止めた。
（きっと、とってもおいしいんだろうなぁ）
　そう思ったのが顔に出たのか、白沢先生に柔らかく手招きされる。
「よく来たわね～きっとあなたが気に入るクッキーがあるわよ」
　手招かれるまま、ふらふら、と立ち寄って色んなクッキーを購入する。
「……あっ、猫さん型のクッキー発見！」
「ふふ、可愛いでしょう～？」
「はい。これもください！」
　イートインスペースに腰を掛け、紅茶と一緒にクッキーにかぶりつく。
　あたりはカップルが多い。でもなんだか全部夢の中の出来事みたいにぼんやり見える。
　ふと、自分の目の前に、自分によく似た少女が座っていて、まるで鏡合わせみたいにクッキーを齧っているかのような錯覚に襲われる。夏朝はしばし、その夢のような錯覚に敢えて溺れる。
　夏朝には、本当は、一緒に手伝いたかった……来たかった相手がいた。
　分離・共存が叶っていれば……。
（……夏夜ちゃん……）
　瞬きし、もう一度目を開けたとき、そこにもう夏夜の姿は見えなかった。
　さく、と猫のクッキーを齧る。
（……後でもう１回クッキーを買おう。夏夜ちゃんへのお土産として）

◇

　楡宮遠海は身長171cm体重54kgとスタイルのよい美少女だが、ここだけの話、痩せの大食いである。
　三猫だんご、まゆ先生のミルク＆アイスクリーム、執事カフェを順繰りに巡った遠海は、「夏バテで食欲がないのよね……」などと宣いながら、全ての店で全種類のメニューを制覇した猛者であった。
　彼女の食欲はまるで、漫画に出てくる某ゴム人間な海賊さんのようですらある。
　そんな彼女が夜店巡りの〆に訪れたのは「あやこさんの手作りクッキー屋さん」。
「ああ、いい匂い！」
　早速クッキーの香ばしくもいい香りに鼻腔をやさしく刺激され、心が浮き立つ。
「ええと」
「どれにする～？」
　おっとりと聞く白沢先生。いくつか好きなものを選ぶのかと思いきや、
「端から端まで、全種類お願いします」
　さらっと言ってのけた！　これが遠海という少女である！
　イートインコーナーに腰かけると、まずはプレーンのクッキーを齧る。
　素朴な焼き菓子の風味を堪能しつつ、ストレートティーをいただく。
　それから、チョコチップ、アーモンド、ドライフルーツなどのさくさくクッキーをいただき、それぞれの味の変化を楽しみつつ、最後は猫のクッキー。
「ん～！　かわいくて食べるのがもったいない！　けど……！」
　さくっ！
　頭から行かせていただきました！
　結局全部おいしく頂いた遠海はクッキーのお替りをしたい気持ちが湧き上がってくる。が、
「さすがにやめておこ」
　自制した。
「たくさん食べてくれて嬉しいわ～」
「美味しかったです」
　白沢先生になんだかとっても喜ばれた遠海はお礼を言うと、あんなにたくさん食べたとは思えないほど軽い足取りで、人ごみのなかに紛れていった。