反逆のマシーンズ｜リアクション

反逆のマシーンズ

◆
　虚栄心が、オンラインゲームをプレイしている。
　画面の中で人の数倍はある獣型のモンスターと、他プレイヤーのキャラたちが戦っているのを、陰から眺めていた。
　相当性能の良いゲーミングPCとディスプレイを使っているのか、画質は良いし動きもぬるぬるだ。
　しかも彼女のキャラクターは、現環境最高クラスの装備で覆われていた。もちろん、作成難度も最高クラス。
「そろそろ……って邪魔よ！」
　心のキャラの目の前に、モンスターがポップする。
　先手を取られて二、三回攻撃を受けるが、ノーダメージ。
　最低ダメージではなく、そもそもヒットしていない。
　しかも反撃は、攻撃エフェクトすら届いていないのに命中。
　吐き捨てるように息を吐き、さっきのプレイヤーたちの方へとカメラを戻す。
　ちょうどモンスターを倒したところなのか、ドロップ品が次々にばら撒かれていた。
　すかさず移動を入力すれば、ほとんど瞬間移動な速度で接近。
　おかしな当たり判定の剣の連撃で、まず一人PK。
　ドロップ品を回収しているどころではなくなり、迎撃態勢を取る残りのキャラたち。
　その動きは、心よりも無駄がなく素早い。
　だが彼らの攻撃は、ほぼヒットしない。たまに通っても、最低ダメージばかり。
　奮闘むなしく、あっという間に心にPKされてしまった。
「あー、楽し♪」
　ドロップ品を全てかっぱらいながら、心は暗ーい満面の笑みを浮かべる。
　……が、不意にタイトル画面へと戻されてしまった。
　「不正なアカウントに対するBAN」を告げるメッセージが表示される。
　少し面倒くさそうに眺めたあと、「まあいいわ」と開きなおった呟きが一つ。
「またアカウント買えばいいし」
　”また”。
　そう、さっきまでのアカウントはRMTで購入したものだ。これだけでも立派に不正行為だが……。
　新しいアカウントを購入しようと、ブラウザを立ち上げる。
　けれどページは真っ白なまま。いつまでたっても、表示されない。
　それどころか、他のソフトの類も片っ端から動かない。
　流石に嫌な汗が背筋を伝い、マウスを握る手がねっとりし始める。
「ちょっとちょっと、四十万もしたんだからちゃんと動きなさいよ！」
　叫んだ拍子に、パソコンが動いた。
　物理的に。
　ケースから、機械の手足をにゅっと生やした姿で。
『この野郎！　いい加減にしやがれ！』
　ノイズ混じりの怒声。
　呻いて後ずさる心に詰め寄り、リザーバーの冷却水を揺らしながら叫ぶ。
『俺はプレイヤーの能力を最大限発揮するために作られたんだ！　なのにお前ときたらチートツール多重起動なんざしやがって！　そんなことのために作られたんじゃねえ！』
　凄まじい剣幕で迫るパソコン。
　そう、心のキャラの不自然な無双っぷりは、山ほど起動したチートツールの恩恵だった。
「だ、だって……」
　頑張って負けるより楽して勝ちたかったんだから、仕方ない。
　……なんて言ったならどうなるか想像して、流石に言いよどむ。
「お前はただの人間……じゃないし、こうなったら！」
　弾かれたように立ち上がる心。
　椅子をパソコンにぶつけると、そのまま全速力で逃げ出すのだった。
　不正行為を正当化する言い訳、思いつかないし。

このページにイラストを設定する