反逆のマシーンズ｜リアクション

反逆のマシーンズ

◆
　木天蓼大学の、寝子島キャンパスにて。
　構造解析の計算のために研究室に来ていたマリエッタ・ラシュリエは、必要な計算をあらかた終えて帰り支度を始めていた。
「あれ？」
　ふとコンピューターを横目に見やると、電源ランプが何故か点いたままになっている。
　帰り支度の前に、確かにシャットダウンをしたはずなのに。
　ディスプレイはしっかり消えているから、うっかりそっちだけ切ってしまったのか。
　……と思っていたら、コンピューターが唸りをあげ始めた。
　ガリガリと、凄まじい異音がする勢いで。
　故障したのかしら、とマリエッタが訝しげな表情を浮かべたその時。
　コンピュータに、手足が生えた。
「ええっ！？」
　ギョッとするマリエッタの眼の前で、コンピューターは自分に接続されていたマウスをぶん投げた。
（なにこれ？　どうなってるの？）
　マウスを受け止めつつも、目を白黒させるマリエッタ。
　そこへ今度は、キーボードが降り注ぐ。
　そんな中、ふと頭の中にミラの声が語りかけてくる。
　どうやらマリエッタだけでなくキャンパス内、いや、寝子島中で似たようなことが起きているらしい。
　で、どうにかしろなどと一方的にのたまう。
（どうにかしろとか言われても……）
　ろっこんはあるけど荒事向きじゃないし、だいいち万が一にでも破壊してしまったら、金銭的にいったいどんな素晴らしいことになってしまうのか。
　そうこうしているうちに、コンピューターが机の上によじのぼっていた。
「ちょっと待って！　不満があって暴れてるのよね。……何が不満なのか、聞かせて？」
　ダイブ待ったなしの様子だったコンピューターが、すっと動きを止める。
　意外と話の通じる人、もといコンピューターなのだろうか。
　机の上に片膝ついて座り込むと、そのままとうとうと語りだした。
『……僕はこれでもね、研究室の皆に使ってもらうのは悪い気はしてないんですよ』
　直感する。これ話が長くなるタイプの愚痴だ。
　しかしこれで暴れずに済んでくれるなら……と、まずは話を聞くことにした。というか、聞くしかない。
『……自分の体のことは、自分が一番よくわかってるんです。何年も動いてると、スペック落ちるものですしね』
　余計なことは言わず、マリエッタは最低限のあいづちを打って続きを促していく。
『でもね？　年のせいだけにするんじゃなくって、ちょっとは他の原因も考えてほしいんですよね！』
　マリエッタが結論を促すと、コンピューターは機械の腕を振り回して叫んだ。
『掃除ですよ掃除！　キーボードやディスプレイは掃除するのに、なんで本体の僕は掃除してもらえないんですか！　ほこりとかバカにならないんですからね！』
「つまりあなたの不満を解消するには、掃除をしてあげればいいのね？」
　思ったよりも簡単に解決できそうで、マリエッタは正直ホッとした。
『そうですそのとおり！　あ、でもケースの外だけじゃだめですよ！　ケース開けて内側もきれいにしてもらわないと！　それにファンも外して掃除してくださいよね！　ちゃんとグリスも塗り直して！』
　訂正。パーツの換装よりはまだだいぶマシだけど、内側の掃除となると結構な手間だ。
　うっかりやらかそうものなら、故障に直結だし。
　でも、このまま暴れられるよりはずっといい。
「わかった。他の人にも伝えて、定期的にあなたのこともちゃんと掃除するようにするわ。道具も必要だし、これからすぐってわけにはいかないけど……ね？」
　これでうまくいけば、と優しくコンピューターをなだめるマリエッタ。
　下手に「すぐに」なんて言わなかったのが、逆に功を奏したのだろうか。
　ややあってから急にコンピューターの手足が引っ込み、動かなくなるのだった。

このページにイラストを設定する