夏の終わりに｜リアクション

夏の終わりに

●ふたりきりの夏

　八神修は、七夜あおいと川釣りをしに天宵川河川敷に遊びに来た。
　釣りの前に木陰の良い場所を見つけ、そこにレジャーシートを敷き、荷物を広げる。
「荷物持って歩くの大変だったでしょう？」
「大丈夫だよ」
　足元に気を付けて、とあおいに注意を促しながら絶好の釣りポイントを２人で探す。

「ここで釣ろう」
　さっそく釣りだ、と修は手慣れた手つきで仕掛けを整える。
「あおいの分も作ってあげるよ」
　２人がする釣りは、どこかに行ったついでに手軽に楽しめるウキ釣り。
　ルアー釣りはリールがついた釣り竿を使う。ルアーといった釣り道具が増えるのでやめた。
　川釣りをするなら、ウキをオモリを使ったウキ釣りのほうがお手軽だし、エサを付け足す必要もない。
　生き餌を使ったほうが釣れやすいけど、女の子に生きた餌をつけさせるのは……と思いやめた。
「どんな魚が釣れるの？」
「そうだな……イワナとか小型のマスかな」
　上流の近くがポイントだから、そこに行こうとあおいを案内する。

　上流付近に着くとさっそく釣り糸を垂らし、釣れるのをじっと待つ。
「風が気持ち良いな。普段結構忙しくしてるからか、のんびりした時間が好きなんだ」
　部活に勉強と忙しい彼にとって、魚が釣れるまでの時間はリラックスタイムだ。
　釣れるかな？　と時々話しながら竿を動かしたり、浮いたり沈んだりするウキを見たり。
　遠く離れた場所にいる川の中に入って釣りをしている人を見て、あおいが「あの人、本格的……」と呟いた。
「あの人は本格的な釣りをしているんだ。俺達は、まったりのんびりしよう」

　今、この場にいるのは修とあおいの２人だけ。他に誰もいない時間は、ゆっくりと流れていく。
「修君、夏休みは実家に帰ったりした？　私は帰って家族とゆっくり過ごしたよ」
「そうなんだ。俺も数日、帰ったよ」
　あおいの夏休みの様子が聞けると思い、互いの実家に帰った時の話を。
「夏休みの宿題は済んだ？」
「うん、終わってるよ。宿題が残っているようなら、図書館でやっちゃう？　俺も塾で貰った課題があるしさ」
　塾でも勉強なんて大変そうだね、とあおいは修を気遣う。
「今はゆっくりしているけど、こないだ本土の進学塾で強化合宿があってね」
「受験対策？」
「そそ、ガッツリ受験対策」
　苦笑いして修が答えると、竿が揺れた。何か引っかかったようだ。
　釣竿を持ち上げたり下ろしたりを何度かしていると、うまい具合に魚が釣れた。
「やった！」
「やったね、修君！」
　釣れた魚をバケツに入れた後、タッチして喜びを分かち合う。
　何匹か連れた後、石の窯を作り、薪となる枝を広い集めに。それが終わると枝で木の串を作る。
　命に感謝し、食べられそうな分の魚をその場で焼いて食べることに。
　窯の火をつけ、串に魚を刺して焼くのも修の役目だ。
　美味しそうに焼けたので「いただきます」と手を合わせてから魚にかぶりつく。

　腹ごしらえをした後は浅瀬に移動し、ちょっと水遊び。
「冷たくて気持ち良いな。それっ」
「きゃっ！」
　ちょっと水をかけただけだが、あおいの服が濡れてしまった。
「ごめん！　タオル持ってくる！」
「大丈夫だよ。魚を焼いた窯の前にいれば乾くから」
　そこに行こう、と手をつないで移動する間、水温に微かに秋の気配を感じた修だった。

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