夏の終わりに｜リアクション

夏の終わりに

●アルバイトの夏

　寝子高生活最後の夏休みのある日。
　森篠琳子は、バイト２年目のシーサイドタウンのファミレスに向かっていた。
　途中で夏夜にぶつかってしまって少し時間がかかったが、どうにかシフト時間に間に合った。
　バイト先のスタッフ専用口から店内に入り、更衣室でファミレスの制服に急いで着替え、フロアでいつも通り仕事を。
「いらっしゃいませ、何名様ですか？」
　笑顔でお客様を席に案内したり、注文を取ったり、できた食事をテーブルへ運んだり。
（お昼時とあって忙しいわね）
　内心はともかく、表面上はスマイルでしっかりと仕事をこなしている。

　休憩時間。
　昼食を摂りながら、同じバイトの子と適当に会話をしている。
　自分と同じ学生バイトの子は「宿題終わってないわー」とか、「マジ学校行きたくねー」といった似たような内容の話を。
（これじゃ、寝子高にいるのと変わりないわね）
　皆、同じようなことを考えていると思いつつ昼食を食べる琳子。
「私も行きたくないですね」
　などと適当に話を合わせていると、誰かが「琳子ちゃん、就職試験どこ受けるか決めた？」と訊ねた。
「寝子島信用金庫に決まりました。試験は９月中旬です」
「信用金庫？　すごーい！」
　内容決定ならともかく、試験を受けるだけなのに、驚かれるとは思わなかった。

　琳子の父は彼女が高校１年の時、２学期が始まって程ない頃に急性心不全で亡くなった。
　それ以来、９歳の妹と母と暮らしている。
　成績優秀な優等生で通っているので、彼女の成績なら難関大学も十分狙えると先生方は言うが、家庭の事情を考えると諦めざるを得ない。
　母子家庭なのもあるが、妹が大きくなったら進学したい、と言い出すかもしれない。
　そう思うと「奨学金を得られる」「特待生として入れる」などと説得されても進学する気にはなれない。
　亡き父が生命保険金を遺してくれたので国公立大学なら進学できるはずだった。お人好しの父が友人の借金の保証人になっていなければ。
　結局、保険金はほぼ全額、借金返済に消えた。
　共働きの家庭だったが、母の保険外交員の収入では台所事情は厳しい。
　家庭の財成事情をすごくわかっているからこそ、進学は無理であるということは良くわかっている。
（……これ以上、母の脛をかじれないわ）
　そう思うと、進学したくてもできない。

　そんなことを考えているとバイト仲間のひとりが「今度の週末、海へ行かない？」と話し出した。
「琳子ちゃんも行こう。せっかくの夏休みなんだし」
　という話になり、琳子も行くことになってしまった。
（せっかくの夏休みだから、どこかに出かけるのもいいわよね。就職したら遊ぶ時間なんてなさそうだし）
　昼休みが終わるまで、いつ行く？　とバイト仲間と海に行く日を話し合う。
　琳子が寝子ヶ浜ビーチ☆スターズコンテストに出場する羽目になるとも知らず。

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