クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～｜リアクション

クリーピーレイン～恐怖の化身と暗躍の悪魔～

●貴方のための強さ

「で？　このあとはどういう手でくるの？」
　ハルキ・イエハナの言葉に、ハルキの姿をした恐怖の化身はにぃと笑った。
『何となくわかってるんじゃない？　ここは、＜君の大切な人が危険に曝された世界＞だ』
「……成る程」
　目前に広がる荒廃し切った世界は、＜もしも＞のハルキの心象風景だろうか？
（いずれにせよ、ぞっとしない場所だな）
　その人を危険な目に遭わせる気は、ハルキには微塵もない。
　けれど、その場所に漂う不穏さは、ハルキの背にひやりとした汗を伝わせた。
「お見事って感じ。商売出来るって」
『本職だからね』
「道理で！　ええっと、確か、恐怖を集めてるんだよね？」
『そうなるね』
「怖い話収集か。販路あるよな」
『軽口はやめなよ。そんなのは只の誤魔化しだ』
　ハルキの軽快なお喋りを遮って、恐怖の化身はハルキのことを嘲笑う。
『本当は怖いんだろう？　君は情けないね』
「情けない？　……そうだね、もっと笑えよー」
　言えば、恐怖の化身は虚を突かれたようだった。
　怪訝な色を乗せた青の目が、ハルキの表情の機微を探る。
　ハルキは、軽く肩を竦めてみせた。
「君の言う通りだ。怖いものは怖いよ。でも、それを無くさなくていい。無くしたくも無いしな」
『失った先を、考えはしないの？』
「意識が残らないだろうからね、楽だよ。以上」
『不安にはならないの？』
「不安か……無ければ楽だろうな。でもそれじゃ、楽しくは無いよ」
　言い切って、ハルキは、口元を笑みで彩った。
「笑いあえる方が、楽しいだろう？」
　恐怖の化身の双眸が、眩しいものを見るように細められる。
　途端――ハルキの意識は、ぷつと途絶えた。

「……ん、」
　目を覚まして、身を起こす。
　目前に、随分と縮んでしまった＜黒い化け物＞の姿があった。
「もう、悪さは出来ないみたいだね」
　大丈夫ですか！？　と声がしたのは、ハルキがぽつりと呟いたその時だ。
　パタパタと近づいてくる足音の方へ顔を向ければ、銀髪の少年の姿。
「君は……」
「はっ、失礼しました！　僕は、お三夜さまの眷属で、睦と申します」
「お三夜さまの……彼女に羨ましがられるかな……」
「へ？」
「ん、こっちの話」
　何でもない、と少し笑って、ハルキも、簡単に睦へと自己紹介を済ませた。
「それにしても、本当に良かったです。まだ意識が戻らない方もいらっしゃるので……」
「……それ、誰？」
「ああ、ええっと……」
　時折つっかえながら、睦はハルキに、犬杜一閃達のことを話した。
　ふむ、と腕を組むハルキ。
「その一閃ての、大丈夫なのか？　心配だな」
「ハルキ殿はお優しいんですね」
「優しいというか、何となく他人事に思えなくて……」
　言えば、睦は不思議そうに首を傾けた。
「まあ、そういうこと。急ぐか。お三夜さまの眷属なら、君の正体は猫？」
「あ、はい、そうです！」
「そっちの姿になってもらってもいい？　問題がなければ、抱えていくよ」
「わわ、かたじけないです！　では、お言葉に甘えてしまって……」
　ぽむ！　と音がしたかと思ったら、目の前には、愛らしい銀色子猫。
　子猫姿の睦を抱っこして、ハルキは、睦に聞いた何でも屋『いぬもり』の方へと急ぐ。
（守りたいものが危険に曝されるって、やっぱヤダよな）
　なんて、一閃とその従妹の少女に、己と伴侶の関係を重ねながら。

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