あくがるる蛍なりけり｜リアクション

あくがるる蛍なりけり

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　惜しみない努力と元来の素質にて養われた観察眼が、至るところできらりと光る。
　発光体とサイクリングをしている内に、八神修はその特性に気付き始めていた。
　先程の公園に居たカップル周辺の様子から、もしや……とは思っていたけれど。
　仮説を胸に光たちを注視していれば、何かに集中している人に集まるのでは、と浮かんだ。
　更にはその人の表情や仕草から、誰かを想っている、という共通点を見出す。
　考察は十分成された。ならばあとは実験、実行あるのみ。
　誰かへの想いがそれらを呼ぶなら……自分にも可能だ、と自信をもてた。
　何故なら、想わない日はない相手が居るのだから。

「あおい……」

　心で、言葉で、その名を紡ぐ。
　修の選んだ人知れぬ場。星ヶ丘教会に続く木々の小道に静かに佇めば、今は真っ暗な葉を揺らす桜の木の影から、次第にぽつ、ぽつ、と淡い光が姿を見せる。
　――　呼べば振り向いてくれる笑顔、
　――　『また明日、修君』と学校で交わした大切な約束、
　――　声が、姿が、
　瞬時に己の全てに湧き上がる。
　無意識に閉じていた瞳を開けると、発光体たちが一気に自身を囲むように舞っていた。
　ああ、やはり……と胸の内で頷いた。
　真っ暗闇なはずの木々に、まるで花開いたように光の点滅が映って見える。

「純粋で一途な光だ」
　発光体たちへ微笑みながらも尚想う。
　――　あおいにも見せてあげたい。
　修がその名を紡ぐたび、点滅に力強さが宿っていくようだった。
　幻想的で尊い光景に、デジカメ構えることも忘れて無限に湧き出す己が想いを分けてやる。
　光り舞う様が、自分へ吸い寄せられるように飛ぶ様が、とてもいじらしくすら感じて。

　そうしてこの場に居る全ての蛍が一番星の如く輝けば、寄り添うように戯れていたのを止めて声をかけてみる。

「お気に召していただけたのかな。まだ何かあるかい？　目的地があるなら送り届けようか」

　あおいへの想いを道標にして。この想いが共にあればきっとどこまでもいけるから。
　真っ直ぐに話しかけてくれる修の音に、どこか喜ぶように光たちがキラキラと瞬く。
　その内に、木々をすり抜けた遥か上空へ光たちが昇り出せば、修は得心したように目を細めた。
　ああ……還る道が分かったんだね……。
　だからこの光たちは、こんなに強く輝けてもどこか儚く物寂しさを纏っていたのだろうか。
　想いを力に換える宇宙船とかが出て来たらどうしようか、などと考えていたけれど、いっそ宇宙船の方が彼らにとっては良かったかもしれない。
　未来があるから。
　でもこの光たちは……。
　そう考えたところで、否、と首を振った。
　きっとこの光たちも、新たな未来が待っているに違いない。
　想う力を求めて、想う力で道を見つけたならば、昇って行った先にも想いの道標が続いていくのだと思えるから。
　人を想う力は、決して消えることは無いと確信を持てるから。
　――　……やっぱり、あおいはすごいな……。
　この想いをくれた人へ、ぽつりと破顔しながら修は光の先に彼女の笑顔を見るのだった。

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