たとえ今日が、終焉（おわ）りゆく明日の始まりだとしても｜リアクション

たとえ今日が、終焉（おわ）りゆく明日の始まりだとしても

　黒い舞台にひとつ、ぽつんと脚光があたる。
　ふたたび分厚い書物を手にしたトワ･E･ライトフェロゥが、光のなかに進み出てくる。
「祝え！　どうやら黒きマスクと青き瞳、金の装飾が三位一体となって、タブン！　未来を創成する時の女王、その名はナターシャ cute foam！　きっと！　新たな一面をみいだす誕生である！　のデス！」
　……という黒い舞台は全部トワの想像の世界にだけにあるものなので、場面は急転、炎天下の路地裏へと戻るのだった。
　トワは突進する。砲弾のように迫る。
　ナターシャ･カンディンスキーに。
　手にパンツを持って……！
　ナターシャもさすがにこれには驚いたらしい。
「よせ！」
　払いのけるような動作をした。
　さりとて力はこもっていない。ゆえにトワはナターシャの手を容易にかわして、
「いいえ今のトワはー祝福の神とfusionしてるのデス！　そう！　トワではなくートワ・ゴット！」
　祝福の心で、ナターシャの胸に体当たりした。全身でぶつかっていく。これぞトワの後悔しない生き方だ！
　ナターシャは慎重百九十センチを超える長身だが、とっさのことでトワの体を支えきれず地面に尻餅をついた。
　同時に彼女の黒覆面が落ちている。
　現れたのは濃い青の瞳、長いブロンド、ぱっと見はトワと姉妹のよう。
　スイッチが切り替わったとでもいうのか。たちまちこれまでの気迫は消え失せ、ナターシャはおっとりした口調で問いかける。
「……お怪我はありませんか？」
「キター！　ノデー」
「キタ……？」
「ああつまり、トワの知ってるナターシャが戻ってキター、ということナノデ。ケガのたぐいはないのデス」
　トワは満面の笑みを見せた。怖い顔をして襲ってくるナターシャより、こっちのナターシャのほうが断然いいと思う。
「お前……」
　どういうことだよ、と詠寛美が問うと、人が変わったようになったナターシャは、トワをまず立たせ、自分もゆっくりと立ち上がった。
「仕事を受けていました。詠さん、あなたに、『自分の意思で戻れ』と伝えることが私の任務です」
　へっと寛美は鼻で笑った。　
「バカ言ってんじゃねえよ。俺が自分の意思で家に戻るわけねぇだろ」
「わかっています。だから、こう伝えるようにも言われています。……次に依頼主は、あなたの周囲の人間を手にかける考えだと」
　瞬間、寛美の背後になにか、黒く大きな影がさしたようにトワには見えた。
「てめぇ、それが本気だったとしたら……」
　怒りで声が震えている。歯を食いしばっているのもわかった。
　しかしナターシャは、静かにこう告げるばかりだった。
「私は、その実行役はお断りしました。さすがに気分がよくありませんので」
　それではこれで、とナターシャは頭を下げて路地から出ていく。
「よくわかりませんが、終わったようデス！」
　ぱっとトワもきびすを返して、ナターシャに追いつくのだった。
「何故見てるんディス！？」
「ナズェ……？　え？」
「見ているだけじゃだめ、ってことデス」
　ぴらりとトワは例のパンツを取り出して、
「つまり、これからトワと買い物に行くのデス！　ナターシャはもっと可愛い格好をするといいと思うマス。君のままで変わればいい、デス！　そうして、イージャンでスゲージャン、って称揚してさしあげたいのデス！」
　いざGo Shoppingデス、とトワはナターシャの手を引くのだ。
「祝わなければなるマイ！　この記念すべき一日をデス！　勝利の法則は決まった、デス！」
　とりあえずは一件落着、ということでいかがだろうか。