犬だっているんです！｜リアクション

犬だっているんです！

　銀髪のティナ・フォルトゥスが子犬を抱いて飼い主を探していると、金髪の女生徒、ナタリア・シシロヴァに出くわした。走り去ってしまった子犬が少し気にかかって、ほんの少しだけ下校を遅らせて、探していただけなのだ。
「あなたが飼い主ですか？」
と声をかける。ナタリアも長身の部類だったが、ティナはさらに背が高かった。輝く髪を持つ少女たちは見つめあう。
「いいえ、違うわ。今から飼い主に返しに行くところ」
「そうでしたか」
ティナの答えに短く返し、ナタリアは子犬に顔を近づける。
「あまり主人を心配させてはいけない」
と小さな声で語りかけた。子犬はナタリアのにおいを確かめるように鼻を動かし、小さくきゅうんと鳴く。ナタリアはいえやすを抱くティナに背を向けて、今度こそ帰宅の途についた。
「心を見透かそうとする……これだから、犬は嫌いなんです」
自分に言い聞かせるように、そう言葉を吐いた。

「あっ！　いえやすー！」
　御巫時子の『友人』である小鳥たちの情報によって、いえやすと飼い主の女子小学生、大森綾音はようやく再び出会うことができた。追いついたもう一人の空舞う功労者、桜井ラッセルと彼の言葉を聞いた逆巻天野、夢宮瑠奈も一緒だ。安心からうれし泣きで、子犬の小さな体を抱きしめる綾音の姿を、最初から付き添っていた折口ゆづきと恵御納夏朝、途中から綾音を支えた桜庭円と八神修が暖かく見守る維都月茉菜は間近で見るまふまふとした子犬の手触りを思い描いて目をキラキラとさせていた。

「よかった！　本当によかったー！」
ひときわテンション高く、綾音といえやすの再会を喜んでいるのは冴木竜司であった。率先して子犬を探しに行ったものの、見つけることはかなわなかったが……幼女の望みがこうしてかない、『お兄ちゃん、お姉ちゃん、ありがとう』と泣いて喜んでいる。この光景こそが竜司にとって最高の褒美なのだった。
「竜司ちゃんセンパイ、何ニヤニヤしてるのだ？」
後木真央が茶々を入れる。
「まさか後木、また俺が変態的な考えにふけっているとは思っていないな!?　俺をなんだと思っているんだ！」
真央はにやりと笑ってみせる。
「いえやすちゃんを探すとか言って、本当はなにしてたのだ？」
「ど、どいひー！　何もしてないぞ、こちとら『YES！　ロリータ、NO！　タッチ』の精神だっつうの！　俺は幼女を見るたびハァハァしてるような危険人物じゃないし、子犬探しに奮闘してたんだ……むしろ真摯に紳士してるっていうのに……」
「お兄ちゃん、よくわかんないけど探してくれてありがとうね。放送のおねえちゃんもありがと」
綾音の笑顔と感謝の言葉は何よりの仲立ちになる。無垢な少女の笑顔に、真央も竜司も心慰められるのだった。本来は圧倒的な猫派であるこの二人が、もし犬猫大会議に出ていたならば、結果はもっと違ったものになったであろう……。
「そういえば、会議はどうなったんだろうな。犬猫だけに絞っては、他の動物愛好家が黙っていないだろう」
修はいえやす騒動から生まれたもうひとつのイベントについて思い出す。

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