うさぎが質屋を襲撃しました。現場からは以上です。｜リアクション

うさぎが質屋を襲撃しました。現場からは以上です。

【緊急指令　うさぎを転がせ！】

「チッ……！　思いの外早ぇな……」
「テオの切り分けた世界なら『足止めに車を蝶に変えて上から降り注がせる！』くらい出来るんでしょうけどねー……！」
　如月庚と屋敷野梢が旧市街の裏道を走る。追い掛けられているうさぎから「わーっ」という慌てふためく声が聞こえて来た。
「向こうもスタミナまで無限なわけじゃねぇ。このまま行けば捕まえられるだろう。……油断は出来ねぇが」
「窮鼠猫を噛むといいますし、気をつけましょー！」

　言葉と同時に、庚の目の端で、梢が自分や他の存在を蝶へと変化させられるろっこん【胡蝶の詩】を発動し、自分の身を蝶へと変える。

　それが、うさぎの不意を突く為だと即座に判断して、庚は梢が飛んでいった方向へと追い込むように更に速度を上げて走り出した。
　うさぎが良く分からない悲鳴を上げながら走る。
　庚の視線の先、うさぎを挟んだ反対側に蝶となった梢の姿を確認した。互いが、確かに無言で意思の疎通を図った瞬間──梢がろっこんを解除し、うさぎの前に人の姿を露わにして、うさぎの短い足を薙ぎ払うようにその足を払った。
「わわっ！」
　うさぎが袋小路の先へと、大きく転倒してころころと転がっていく。そこを塞ぐように、庚が立ち塞がった。
「ったく。手間を掛けさせやがって……」
「えっ、え！　どうしよう、ひとから追い掛けられた時の対処法なんて聞いてないよ！
　ど、どどどうしよう……！！」
　水色の上着だけを着たうさぎが、うろたえきった様子で口にもふもふの片手を当てて困惑してみせる。
　全長はひとの太腿にぴんと張った耳が届くくらい。まるでぬいぐるみを思わせる様子だが、爆破現場を目の当たりにして考えを固めた庚に、その可愛さは届かない。
「えっと……！　あ！『うさきんぐα』は爆発する時に眩しいから、これ──！
　あ、で、でもぼく達やひとに使ったら『本当に痛いよ怖いよ』って教わってるし……」
「……なるほどー、それが武器ですね。
　きちんと、危険物としての扱いは知っているようですが、一応回収しておきます！」
　梢がろっこん発動条件である【対象が蝶となる瞬間を、強く想像する】と、その『うさきんぐα』というらしい、ニンジン形の爆弾は、ふわりと大ぶりの蝶の姿となって、うさぎの手が届かない高さまで飛び上がっていた。
「あーっ」
　うさぎが慌ててジャンプする。ぴょんぴょんしているが、爆弾には届きそうにない。
　その隙に、庚がうさぎの至近、三歩ほど前に足を踏み出した。

「悪いが俺はお前らを見た目で判断して手加減するほど甘くは無ぇ」
　庚の日常よりも更に少し低い声。うさぎは見るからに縮み上がった。

　そして、庚は己のろっこん【青にして蒼穹】を発動させる。
【額にある傷跡を指でなでる】その条件を、二回。一回目は己の右腕に。ニ回目は全身に。ゆらりとたゆたう『蒼』と共に、神魂をエネルギーとした身体強化が発動した。
　庚は、あの爆発現場を見ている。
　そう『通常のウサギならば、まずあのような事はしない』のだから。

「──とりあえず『飛べ』」
　庚は躊躇せず、アッパーでうさぎのボディに入った拳を大きく振り上げた。
　こうしてうさぎは、みごと空に輝く星になったのである──