うさぎが質屋を襲撃しました。現場からは以上です。｜リアクション

うさぎが質屋を襲撃しました。現場からは以上です。

【早朝の爆破劇】

　──これで、みんなで、美味しいニンジンを食べようよ。
　それで、みんなで【ぜいたく】するんだ──

「──……？」

　椎井莉鳥は目を覚ました。
　パチリと、開かれた茶色の瞳は、いつもの自分の部屋の天井を映している。
　うさぎの夢を見た。それも非常に落ち着かないものを。
　時計を見れば、陸上部の朝練の時間だった。
　今日の練習は休み──しかし、莉鳥の目は完全に醒めてしまっていた。夢がもっと穏やかなものだったら、幸せにもう一眠りも出来たのに。

　不思議で何か落ち着かない。莉鳥はそう思いながらも、朝食を食べに自宅の一階に降りれば、美味しそうな料理が出迎えた。
『寝子島でこんな事件が起こるなんて』──テレビを見ていた両親の言葉に、莉鳥が画面に目を向ければ、そこには『質屋が、正体不明の強盗に──』と口早く喋るアナウンサーの姿があった。

　……まるで、ぼんやりした中から、何かが引っかかったように、莉鳥の中で何かがカチリと音がした。
　──朝食の傍らで、検索を掛ける。キーワードは『寝子島　質屋　うさぎ』──

『シュー君。事件なのですよ！』
　ニュースが流れている。朝食を終えて、ミントティーを飲みながらじっと携帯を見ていた、八神修の手元が鳴った。
　それは、ねこったーのダイレクトメールの通知。宛先は椿美咲紀からだった。
『事件なのですよ！　ねこったーで話題の【二足歩行うさぎ】の目撃情報が、わたし、気になるのですとも』
『ああ、俺も丁度見ていた。
　深夜から目撃されている、貴金属を抱えて歩くうさぎの話題……か。
　……もし知っている【うさぎ】なら考えたくはないが、今の質屋の襲撃事件と関連性があるかも知れない。調べてみよう』
　修は手早く送信すると、美咲紀からの返答が来るまでの間に、常闇月へと状況説明と協力要請の連絡を入れた。
『寝子島の質屋強盗事件と、二足歩行のうさぎ……なるほど。分かりました。
　フツウを守る為に、助力は惜しみません』

「庚くん、梢ちゃん。来てくれてアリガト☆
　──さっそくだけど……朝のニュース見た？」
　場所は、寝子ヶ浜交番の向かいにあるコーヒー屋『299 COFFEE』にて。夏休みの最中、如月庚と屋敷野梢を呼び出した志波武道は、最初の明るい挨拶と笑顔を改め、二人に真剣な口調で本題を切り出した。
「見ましたよー。寝子島の質屋が大変ですねー」
「かなり物騒な話だが……改めての呼び出しってことは──異変絡みすか？」
「うん、……実は、実際に何回か遭遇してるんだけども、夢で──」

「──犯人は、二本足のうさぎ……ですかー」
「……これがただの夢なら良かったんだけども、試しにＳＮＳで検索を掛けたら目撃情報が沢山上がっていたんだよね。現状、画像に何も写ってないのが救いかな」
「そのうさぎっていうのが異変の原因なら、画像に写らないのも納得すが……志波先輩の夢の通りなら──次がありそうすね」
　庚の言葉に、心重そうな様子で武道が頷く。
「……うん。とにかく悪い事をしている自覚がなさそうだったからね」
「襲撃を受けた質屋はご愁傷様としか言えんが、被害が広がるのなら放置しておけねぇか……」
「うーん、これなら悪意を持ってる相手のほうがボコボコにすればいいから楽ですよねー」
　今回は、単なる武力行使を取るには、いささか気が重い。問題の解決案について、梢が唸る。
「とりあえずその質屋の『マルチュウ』とやらに行ってみようじゃねぇか。目撃証言やうさぎの特徴でも分かれば御の字だ。
　それに……俺達が動くからには、現場と被害を見ておく必要がある」
　今この場に集う三人は、純然な怪異から人為的なものに至るまで、寝子島の様々な異変に関わり、解決までの道のりを築いてきた。
　ただの興味本位ではない、今までの行動の中で生まれた『責任と自負』から、庚は席を立つ。
「ですねー。悪意のない悪事ほどたちの悪いものはありませんしー」
　梢も、それを身に纏う一員として庚に追従する。
「俺は……襲いそうな場所と、うさぎがいる場所の情報集めて推測してみるよ」
　そう告げた武道と、互いの連絡を密にする事を確認して、以降は別行動を取る事を決めた。
　そして、その場に残った武道は、早速ねこったーへと書き込みを置いた。

『うさぎカワイイナ！　他に見た人いる？』

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