【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!｜リアクション

【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!

●綺麗なお姉さんは好きですか？

　城下町は、暑かった。いやもうこのやろバカンスだって開き直らないとやってられないぜＨＡＨＡＨＡ！　ってくらい暑かった。だから広場もお店もいつもよりテンション高めみんな陽気なのはしょうがない。そんなご機嫌ラテン系な城下町を、半分溶けかけながら歩く女の子がいた。

「暑い……星幽塔まで、暑い……」
　ずるずるずる。恵御納夏朝は賑やかな通りを、もう半ば惰性のように足を引きずり歩いていたが、パラソルがついたベンチを見つけると、崩れるように座った。
（避暑を兼ねて遊びに来たのに、星幽塔まで暑いなんて……）
　パラソルの日陰にずりずりと逃げ込みながら、夏朝は石畳にすら反射する強い日光に目を細める。これでは寝子島と変わらない。確かに階層によっては高温の所もあるけれど、第一階層でこれは詐欺ではないだろうか。

（ましてや僕の場合、いつもの装備が……ね……）
　ファンタジーのシーフみたいで、とてもかっこいいのだ。猫マフラーに、パペットのハルくんまでバンダナをして。さあさあ、お宝どんとこい！　な装備なのだが。
（……せ、せめて魔水の光で来るんだったかな……）
　腕利きシーフは暑さでやられまくっていた。

　ベンチに座り少し落ち着いた夏朝。この暑さすら楽しんでいるほしびと達に元気づけられ、屋台を回ってみる事にした。
　まずは果物のジュース。ころんとした可愛らしいフォルムの虹色の実に、果汁と細かくした果肉がなみなみと注がれている。これを一緒に口にするととても爽やかで美味しく、夏朝はだいぶ元気を取り戻した。
（うん、やっぱり屋台は楽しいね）
　少し足取りが軽くなった夏朝が次に興味を惹かれたのが、キャンディの屋台。色とりどりの楽しくなるようなキャンディが並んでいる。口の上手いお兄さんにつられるようにして買ったのは、涼しげな水色のキャンディ。ソーダ味だというそれを口に含むと、しゅわわと楽しく口の中が弾けた。
「うん、美味しい」
　この刺激が今の暑さにはぴったりだ。夏朝は満足そうにキャンディを舐めながら歩く。しかし、しばらくするとむむ？　と首を捻った。
「……あれ、なんか……見える風景が少し変わったような……？」
目をこしこしと擦る夏朝。さっきまでと周りが何となく違うように感じるんだけど……気のせいかな？

　キャンディをコロコロ、首を傾げ傾げ城下町を歩く夏朝。その手足はすらりと長く、髪も少し伸びている。そして何と言っても女性らしい体つき、いつもより１０センチは伸びた背。―――そう、実は夏朝のなめているキャンディはスクスクキャンディ。夏朝は知らないうちに綺麗なお姉さんシーフになっていたのである。