【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!｜リアクション

【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!

●猫さんは避暑の天才

　涼みの指輪を貰い損ねた綺麗な盗賊お姉さん恵御納夏朝は、ベンチで暑さにへばっていた。
（やはり……この暑さはきつい……）
　屋台を楽しみたくてももう体力の限界だ。このまま僕は星幽塔で溶けてしまうんだろうかと夏朝がでろでろの思考をしていた時、ふと視界の端を何かが通り過ぎた。
「あれはもしや……猫さん？！」
　それは心持ち尻尾をへたらせながらもとてとてと歩く猫の姿。それを認めると夏朝は瞳を輝かせ、ガバリと起き上がった。どうやら彼女にとって猫達への体力は別腹のようである。
「猫さんー……暑い日もかわいい猫さんー……」
　夏朝は猫の後を追いかけ始めた。驚かせないように、そーっとそーっと。そこら辺は女盗賊だからお手の物、である。

　猫はたくさんの人波を器用に避け、すいすいと路地裏へ入っていく。引き込まれるように夏朝もその後をついていったが、ふと体が楽な事に気が付いた。
（あれ、ここ涼しい……）
　城下町の複雑な路地裏。立ち止まって周囲を見れば、樽の上や窓辺、ひさしの上などあちこちに猫達がだらーんと寝そべっている。まるで猫の避暑地だ。
（ここ、猫さん達の涼み場所なんだ）
　夏朝は彼らを眺めながら隅っこに静かに座った。普段は猫達の邪魔をしないようにそっとしておくのだが。
（今日は暑いから……暑いから……）
　ちょっとだけここにいさせてね。汗が引いたらお暇するから。
　装備に金属の部分もあるから、熱くなっているかもしれない。夏朝は猫達に触れないように細心の注意を払いながらにこにこと彼らを眺める。まさかの猫達と一緒のサマーバケーション。

　夏朝はひんやりした石造りの壁を背に、つらつらと考える。
　暫く休んだらまたお店を巡ってみようかな。お友達とかにお土産を買えたらいいんだけど。そういえば、宿題……あと少しだけ終わってない。帰ったら頑張らないと、だけど。
　夏朝は立てた膝に顎を乗せ、周囲の光景に小さく微笑んだ。あくびをする猫、耳だけぱたぱたさせながらもだらんと寝そべる猫。
　……今だけは君達と同じ時間を過ごそうかな。

「星幽塔の夏休み、かぁ……」
　ゆっくりとした異世界での時間。思い思いに涼む猫達に囲まれながら、夏朝は呟いた。