【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!｜リアクション

【星幽塔】第一階層　突然……summer vacation!

●『次回！　湯煙の向こうには』（※嘘です）

「腹減った……」
　湖の家の食堂入り口に、ずたぼろな楢木春彦の姿があった。

　黒白豚と死闘を繰り広げていた春彦。何とか勝利して（豚が根負けしたとも言う）、キノコも無事見つかったのだが。
（こんな泥まみれじゃどこも行けやしねえ）
　汚れを洗い流すため湖に向かった春彦。湖の家がある事を知り、ついでに食事を取ろうと立ち寄ったのである。

「ちょっと混んでるので、相席お願いしまーす」
　食堂に入るなり店員に言われ、春彦はぽりと頬を掻く。そして手前のテーブルに目をやった。……少年２人連れか。女の子より気ぃ遣わなくていいかな。
「ごめん、相席いいか？」
　頭を下げながら相手の顔を覗き込む。その琥珀色の瞳と目が合った時、既視感に襲われた。
（何か知った顔の気ぃするけど、思い出せねぇ）
　虎の耳をひょこひょこさせている一つ結びの長髪の少年。ん……？　虎？
　するとカレーを食べていた少年が、少し口の端を黄色くしたまま叫んだ。
「おーー！　春彦ーー！！」
「―――メリィか？！？」
　名前は出たものの、春彦は戸惑っていた。メリィ・ランページって女じゃなかったっけ？！

「春彦元気そーだねー、傷だらけだけど！」
　にししと笑う少年に、春彦は座りながら半信半疑で問いかけた。
「お前、メリィだよな……」
「うん！　あた……おれ、虎の子メリィだよ！　こっちは大親友リリエル！」
　メリィは自分の向かいに座っているすらりとした金髪のポニーテールの少年を紹介する。その少年は、
「こんにちは☆　リリエル・エーテライトです」
と笑顔で礼儀正しく挨拶した。
　春彦は混乱していた。確かに前会った時は女の子だと思ってたのに。名前も女の子っぽいケド……ほしびとって男女の区別つきにくいもんなんかなぁ。
「春彦何しに来たのー？」
　口をもぐもぐさせながら屈託なく訊くメリィに、春彦は自分の思い込みを捨てた。目の前のメリィはどうみても少年だ。だからこいつは元々男だったんだ。
「おお、涼みに来たんだけど色々あってさ……。お前達は？」
「わた……僕達は湖に泳ぎに来たんです」
「そんでねー、色々あってここで着替えてご飯してるんだ」
　そう言って楽しそうに笑う少年達に釣られ、春彦も笑顔になる。何だかこいつら、可愛いな。
「そうだ、お前らこの後暇か？」
　店員に自分の注文を済ませると、春彦は２人に向き直った。
「僕はバーの仕事が入るまで何もないです」
「おれもリリエルと一緒にバー！」
「じゃあさ、一緒に風呂行かねぇ？　俺汗落としたいんだよね」
　春彦は提案した。これも何かの縁だし、男同士、裸の付き合いの方が仲良くなれるんじゃねぇ？
「お風呂ー！　男湯？」
「？　ったりめえじゃん」
「男湯行くーー！」
「め、メリィちゃ……じゃない、くん！」
　楽しそうなメリィと対照的に、リリエルは真っ赤になっておたおたしている。
（あ、あんま男同士でも裸とか苦手なのかな）
「や、別に無理しないでもいいぜ」
　右に左に挙動不審なリリエルを心配して、春彦が声をかける。しかしリリエルは小さく拳を握り「女は度胸！」と呟くと、キッと春彦を見た。
「僕も行きます！」
「お、おお……」
（そんな風呂行くのに気合い入れるか？）
　戸惑う春彦の前できゃっきゃわいわいフンフンと騒がしい少年２人。……どうやらメリィくんとリリエルくん、お湯に浸かると元に戻るのを知らないようで。

「よーし、じゃあ早く食っちまうからな！」
「「はーい！」」
　来た食事を前に腕まくりをする春彦。元気よく返事をするメリィとリリエル。―――嗚呼、３人の運命や如何に？！（続く……のか？）