シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●またまた自宅にて

　シエスタとは、強烈な太陽光で倒れる人が続出した地中海で、もっとも暑い時間をやり過ごすために始まったと言われている。
　つまり日よけのための時間なのだ。
　そんな云われのあるシエスタの時間に尾鎌蛇那伊は一時間を超える走り込み（いくつもの重りのことを考えれば筋肉トレーニングと呼ぶべきか）行っていた。
　一定のペースで走るだけでなく、ときおりダッシュも混ぜ込んで。
　そんな厳しいトレーニングを終えて、自宅に戻ったのだからすぐ休憩する、と言いたいところだったが、蛇那伊は汗を拭い、喉を潤しただけであとは座ることさえしなかった。
（次は上半身ね）
　飽くことなく、蛇那伊は淡々とトレーニングに励む。
　彼が（あるいは彼女）が向かったのは自宅の庭。
　そこには二メートルはあるだろう石像が二体あり、どちらも荒い削りが独特の風合いを醸し出していた。
「……ふぅ」
　今日は最近よく使う技を磨く訓練をしよう。
　心に決めて、蛇那伊は自身の身の丈よりも高い像を持ち上げた！
　それだけには留まらず、像のバランスを取ると、なんと片手だけで支え始めたのだ。
　高いだけあって、グラグラと像の頭部分が揺れる。
　それが空から吊られたようにピンと背筋を張ると、今度は空いている手でもうひとつの像を持ち上げた。
　盛り上がる蛇那伊の上腕二頭筋。筋張る手首。
　メキメキと音を立てて全身で腕を支えて、蛇那伊はどうにかその像を持ち上げた。
　蛇那伊の両腕に並んだ二体の像。
　悠々と尾鎌家の庭を見下ろして、実に威厳のある姿であった。
「っと、」
　しかしそれで終わりではなかった。
　持ち上げた二体の像をゆっくりと、勢いに頼らずに筋肉だけで振り回し始めたのだ。
　なんてめちゃくちゃな！　と周りに人が居れば口にするだろう。
　しかしこのトレーニングにはれっきとした理由があるのだ。
　彼の得意とする技『オカマタイフーン』は遠心力を使って全身を高速回転させる技。
　もし上半身に筋肉がなければ、なにかを掴んでいても放してしまうし、なによりも体がその遠心力に耐えられなくなってしまうのだ。
　だからこそ上半身の筋力を、それから握力をこうして鍛えておく。
　もちろんここで鍛えた筋肉は拳法を行うにも役に立ち、マッサージの際の調整にも使える。
　計算された豪快な訓練。
　これこそ彼の強さの秘訣だった。
　像の緩やかな回転劇を一時間ほどで終えて、蛇那伊は自宅の中に引き上げていった。
（武闘家たる者、体の柔軟性も維持しないといけないわ）
　ストレッチをするために。

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