シエスタ・フェスタ！｜リアクション

シエスタ・フェスタ！

●旧市街の片隅でぇ！

　駄菓子屋の前には若い男子がふたり。
　ビニールプールで涼を取り、それからひとつの賭け事に興じていた。
　逆巻天野は富士山権蔵は目の前に現れないと言った。
　真辺伸幸は「俺も来ない方に賭けたい」という希望虚しく、選択肢はなし。
　そしてしばらく。
　フジコは来ない。
　と思っていたが、遠く向こうの方に、人影が浮かび上がった。
　伸幸はほとんど期待せずに影が濃くなるのを待つ。
　天野は人影が見えたのと関係なく汗をかいていた。
　影が濃くなる。
　意外と体つきががっちりしているらしいことが見て取れた。
　身長は――あれ、１８０……いや１９０くらいあるんじゃないだろうか。
　汗が、天野の手に滲んだ。
　思えば、フジコと関わってイイコトなんて一度もなかった。
　断言してもいい。
　更に人影が近づいてくる。
　心なしか、手足の動きがしなやかなような……。
　あれ、これはもしかしてあり得るんじゃないの？
　無意識に拳に力が入る。
　今、もし、彼あるいは彼女が現れて、伸幸と天野の生足を見れば間違いなく立ち止まるだろう。
　急いでプールを飛び出し、ズボンを伸ばした。
「あれー？」
　伸幸が不思議そうに小首を傾げる。
　そうしている間に、影は、輪郭を見せ――顔が視認できるほどまで近づいていた。
「あ」
「あー」
　ふたりは声を揃える。
　見覚えのある、あの、肉体美。
　あれは、あの人は間違いなく――尾鎌蛇那伊だ。
「ですよねー」
　伸幸はがっくりと肩を落として、
「フジコ先生ではなかったよね。見た目の系統は近いけど」
　天野はすっと伸幸に手を伸ばした。
　そして駄菓子屋でアイスを買い、優雅にプールに足を浸けながらアイスを齧るのだった。
「アイス食べる？　君のお金だけどね」
「その色メロン？　なら一口」
　伸幸はかぷりと無邪気にかぶりつく。可愛いというのとは違うが、安心する姿だった。
「ぬ」
　いつもの独特な返事。
「おいしい？」
「これは……」
　伸幸が珍しく目を見張った。
「うん。わさび味」
「ワサビ味とかブービートラップ……！」
　ここの駄菓子屋は変わったお菓子が多いんだよね。
　ふと、天野は平和だなぁと思った。