【星幽塔】第二階層　洞窟温泉に潜む魔物｜リアクション

【星幽塔】第二階層　洞窟温泉に潜む魔物

　別の出口から広い空間を抜けると再び狭い通路が右へ左へ要り組んでいた。
　運良く行き止まりを見つけた。少し深くなっていて、どうやら温泉のようだ。
（うん、ここにしよ）
　心の中で言って、大筆で陣を描く。この場所なら一方向からしか敵が来ない、狭いので一気に襲い掛かられることもないだろう。
いつもより丁寧にそれを描きあげた海は自分が元来た道から誰も来ないことを確認する。
（今は周りに誰もいないみたいだし、さっきの女の子も入ってたしちょっとくらい良いよね）
　運よく温泉も発見できたのだ、堪能しないのはもったいない。あの広い空間に『はいびと』が攻め込んできたら、音や声で分かるはずだ。
　海はいそいそと服を脱ぐと、少し深くなっている温泉に沈んだ。
（ふあああ……）
　お湯に包まれる瞬間の開放感がなんとも言えない。そして、
「！」
　どうやら、事前情報で聞いていた、電気風呂というやつらしい。少々ビリビリするものの、気持ちいいし、なんだか力が沸いてくるような気もする。
　と、そのときだった。元来た道の方からさまざまな音や声が聞こえてきた。どうやら『はいびと』が攻め込んできたようだ。

　ものすごい数の『はいびと』が広い空間内へ攻め込んできた。アリスは素早い動作で湯から出て飛びつつ、襲い掛かってきた『はいびと』の攻撃をひらりとかわす。すると、温泉に落ちた『はいびと』が体を痙攣させ、すぐに動かなくなった。
「もしかしてやった？　こんなに良いお湯なのに」
　そう言いつつ、『はいびと』達をびりびりの湯に叩き落として行く。
「こっちは任せて！」
　夏朝は頷いて、海が出て行った方の出口へと走り、狭い道へ滑り込む。すると、『はいびと』達が狭い通路に流れ込んでくるのだが、勢いをつけたせいで、引っかかってしまったようだ。振り返った夏朝は先頭の二人へ戦輪を放つ。壁に当たらないように高い天井を利用して振り回し、ヒット。膝から崩れ落ちたのを確認し、手のひらを追っ手達に向ける。
「チャンス」
　その後ろから来る『はいびと』めがけ、水弾を次々に撃ち込んで行く。
　さらに後を追わせつつ、海の待つ袋小路の近くで湯に沈み、姿を隠す。夏朝の思った通り、『はいびと』は海めがけて、道へ入り込んで行った。

（仕掛け済みだよ！）
　攻め込んでくる『はいびと』を正面から待ち構えていた海は手のひらを彼らに向けた。
　星の力で描いた陣から温泉水が巻き上がる。次の瞬間、刃の形を成した温泉水が飛び、彼らを貫いて行く。もちろん、撃ちもらしたものもいたが、それぞれ後方から飛んできた水弾と炎で一匹残らず、消滅したのだった。
『はいびと』が消え、向かい合う三人。
「やったみたいだね！」
　アリスが言って、夏朝と海が笑顔で頷いたのだった。

　追いかけてきていた『はいびと』達が去ったのを確認し、月詠は音を立てないように温泉から浮上した。
「かなりの数がいるな……」
　洞窟内にはどこもかしこも人の気配がしている。『はいびと』だけではなさそうだが、迂闊に音を立てられない。むしろ移動しないほうがいいかもしれない。
　月詠は洞窟の壁に絵を描き始めた。そうしているうち、
「！」
　先ほど、撒いたばかりだというのに、前方から『はいびと』が迫っていた。
「まずは、既存生物かどうかを確認するか」
　月詠のろっこんの性質上、それを知っておくのは重要だ。
　辺りを見回し、温泉に満たされた足元へ視線を落とすと、小石が落ちていた。それを拾いあげる。
　と、バシャバシャと音足がし始めた。