家電のスイッチを切らせるな！｜リアクション

家電のスイッチを切らせるな！

●天国の奪還

　旧市街のとあるアパート。
　落合まゆらは快適な時間を過ごしていた。これも新品のエアコンのおかげである。

　以前買ったエアコンは『安物買いの銭失い』という言葉がピッタリな代物で、とんでもない目に遭った。それから懸命にお金を貯めて、実家にもいくらかお金を送ってもらったり、先日の自転車レースで得た商品券などを使って、やっと新品のエアコンを購入した。

「あー新品のエアコンは快適。涼しくて気持ちいいー。もう天国。これさえあれば、他に何もいらない。」

　これまでの環境が酷かった分、今の状況に大変満足している。しかしいきなりエアコンが止まり、そんな天国気分は唐突に邪魔された。訝りながら原因を調べるとなぜか電源が切れていた。

「タイマー設定はしてないはずだけど……」

　疑問に思いつつ、再度電源を入れる。再び送られる冷風に心地よさを感じたのもつかの間、すぐに風が止まってしまう。

「冗談じゃない、今度は欠陥品を掴まされたっていうの？」

　不満顔で再び電源を入れようとしたときに、何か黒い影が部屋から出て行くのが見えた。

「待ちなさい！」

　今のが犯人かもしれない。そう思って追いかけるも、闇雲に探し回っていたのでは体力がいくらあっても足りない。

「絶対に捕まえてやるんだから！」

　形相を変えてご近所を中心に探し回る。どうやら他の人たちも同じように家電のスイッチを切られているようだ。その順番をどうにか辿って、ようやく黒い影を見つけ出した。その影はまゆらよりも明らかに背が低く、額に星のマークが付いている。

「さては、あんたが犯人ね！」

　まゆらがびしっと指摘すると、影は純粋にびっくりした様子で、まゆらのほうを見る。影は逃げることはせず、どこからかサイコロを取り出した。

「サイコロ、ナゲル。オオキイト、カチ」

　たどたどしく聞こえたが、サイコロの出目で勝負しようということらしい。まずは影がサイコロを振ると、地面で何度か転がったあと５の目が出た。

（……あれ？　これって６の目以外負けじゃない？）

　ここまで追い詰めたのに、最後に壁が立ちはだかる。まゆらはサイコロを拾うと強く握りこみ、覚悟を決めて投げた。地面で何度も跳ねるサイコロの行方を２人は見つめる。
　やがてサイコロは動きを止めた。出た目は、６だった。

「やった！」

　喜びを全力で表すまゆら。対照的に残念そうな影。

「マケタ。カエル。バイバイ」

　そう言い残して去っていった。あの影はなんだったのかと思いながらアパートへ帰る。気づけば近辺で起こっていた騒動は収まっていて、本当に帰ったんだと感じた。
　アパートに着くと早速エアコンをつけて、まゆらは再び天国気分を満喫した。

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