家電のスイッチを切らせるな！｜リアクション

家電のスイッチを切らせるな！

●本命攻略のために

　羽生碧南はバスケ部での練習を終えると、桜花寮へ戻ってきた。部屋に向かう前に風呂で汗を流し、食事も済ませるとTシャツにショートパンツという格好で部屋に入る。

「さて、と」

　同居人は帰省中なので、心置きなく乙女ゲーに興じることができる。はやる気持ちを抑えつつ、早速ディスクをゲーム機に挿入して電源を入れた。……しかし、なぜか反応しない。よくみると勝手に電源が切られている。他にも部屋のエアコンなども勝手に切られていた。

（どうなってるの？）

　疑問に思っていると、何かが逃げる気配を感じて反射的にその方角へ向かう。ようやくそれを視界に捉えると、稲妻マークをつけた影のような、妙な出で立ちだった。背丈は碧南の半分以下で、だいぶ小柄に感じられた。影は碧南との距離が迫ってきたところで立ち止まる。
　そのまま向かってきた彼女に対して、こう切り出した。

「ショウブ。カケッコ。オレ、ハヤイ。マケナイ。ゼッタイ」
「かけっこ勝負。いいわ、望むところよ」

（今やってる乙女ゲー、最後にとっておいた本命を攻略していたのよ。邪魔されてたまるもんですか！）

　そうと決まれば寮の外へ出る碧南と影。影も自信があるのか、不敵な笑みを浮かべている。しかし碧南だって見た目こそゆるふわ系の美少女だが、バスケ部レギュラーのれっきとしたアスリート。彼女はここぞというときに勝負強さをいかんなく発揮する。
　影は遠くに見える建物を指差した。この場所からだと、だいたい５００メートルくらいだろうか。競争という観点でみると、なかなか厳しい距離だ。影が石を拾い上げ、高く真上に投げた。そして２人はスタートの構えを取る。
　緊張の瞬間。石が落ちると同時に２人は走り出した。碧南は序盤では自分のペースで走ることに専念する。影は小柄な体格からは想像できない速さを見せ、碧南の先を行く。あくまでペースは保ちつつ、これ以上引き離されないように追いかける。
　そして緩やかなカーブに差し掛かったところで、一気に距離をつめる。目標の建物が眼前に迫るが、影も碧南もだいぶ疲労している。それでも最後の力を振り絞り、影を追い越すとゴールの建物へタッチした。少し遅れて影もタッチしたが、勝敗は明白だった。

「マケタ。オレ、ハヤイ。オマエ、モットハヤイ。カエル」

　そう言い残して、影はどこかへ消えていった。これでもうゲームの邪魔をされることはないだろう。

「またお風呂に入らないと……」

　少し体を休ませた後、碧南は寮へ向かって歩き出した。

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