家電のスイッチを切らせるな！｜リアクション

家電のスイッチを切らせるな！

●暑さにやられる前に

　響蒼留人は剣道部の練習で学校へやってきて、いつものように武道場の２階にある剣道場へ。しかしそこには暑さでダウンする生徒達の姿があった。顧問の島岡雪乃先生も辛そうだ。

「先生、大丈夫ですか？」
「う～ん……」

　暑さでぼんやりしているが、とりあえず大丈夫そうだ。状況を近くにいる生徒から聞くことに。

「エアコンも電気もつかない、だと……？」

　去年まではエアコンのない教室もあったとは聞くが、今はちゃんとある。なにか原因があるんだろうか。蒼留人は特に雪乃先生が気がかりだった。普段から鍛えてる自分や他の生徒はともかくこれでは先生が参ってしまう。

（先生、体力なさそうだし、あの大きな胸は熱そう……いや、なんでもない）

　頭を横に振って、浮かんできたものを取っ払う。先生は手近なところにあった扇風機に手を伸ばそうとする。

「先生、扇風機も電気だから無理かと……」

　本当に暑さにやられているんだと痛感する。せめて日陰なら少しは涼しいか……と思っていると、視界に影が映りこんだ。影は素早い動きで剣道場から去っていった。

（なんだ今の影……また神魂の仕業か）

　いつも同じ練習より変わった鍛錬も悪くない。

「追いかけて捕まえるぜ！」

　竹刀を脇に構えながら影の姿を追う。このほうが速く走れそうだ。

「イタズラ！　ダイスキ！」

　影は蒼留人に追われながらも、どこか挑発的だ。

（悪戯好きだと……姉を思い出す……むかっ腹が立ってくるぜ）

　苛立ちながらも影を追い続ける。すると西門のあたりで急に影が止まって振り返った。蒼留人も思わず立ち止まる。影はよく見るとだいぶ小柄で、おでこに稲妻のマークが付いていた。

「オレ、ハヤイ。ウチュウ、オレタチ、モラウ」

　どうやら宇宙侵略のために悪戯を行っているらしい。

「最近の暑さは殺人的なんだ。弱い人なら死んじまうかもしれないんだぞ？！　宇宙侵略を目論むならこんなせこいことやってるんじゃねえ！」
「オレ、ショウブ。カケッコ、マケタラ、カエル」

（……いかん、熱くなったら冷静な判断ができないな）

　かけっこで勝負して、負けたら大人しく帰るという。蒼留人はひとつ深呼吸をして平常心で臨む。コースは西門から体育館の前を通り過ぎて東門を抜けるまで。
　影が高く石を放り投げると、２人ともスタートの構えを取る。一瞬の緊張。カツンと鋭く落ちた石を合図に２人は駆け出す。影は華麗にスタートダッシュを決める。蒼留人は負けてなるものかとその後ろに張り付く。テニスコートまでの直線で粘り続け、職員玄関へ曲がるときに一気に差をつめる。完全に並び、東門までのわずかな距離を２人とも全力疾走する。
　東門をわずかだが先に通ったのは蒼留人だった。走るのに夢中で、暑さも忘れていたようだ。汗がどっと噴き出すのを感じる。

「オレ、マケタ。オマエ、ハヤイ」

　影はそう言い残すと、どこかへ消えていった。

（解決、でいいんだよな……？）

　蒼留人は剣道場に戻ると、エアコンのスイッチを入れる。涼しい風が全体に行き渡る。

「先生、エアコンつきましたよ」

　そう言って先生のほうを見ると、汗に濡れて輝く笑顔が眩しかった。

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