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- 00月00日生 00歳
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NECO MUSIC FES 1370！
美しき青きドナウ。
華麗なる大円舞曲。
スケーターズワルツ。
ヴァイオリニストとして招かれた豪華客船のダンスホールで、深林 真瞭は時に即興楽団で、時にソロで、楽曲を披露している。
普段、コンサートマスターとして所属している楽団とは違う、互いに慣れないながらも楽しい音楽を奏でようとする人々の音の中に混ざるのはとても心地が良かった。心地よい、と感じることで、普段己があの楽団の中で如何に神経を疲弊させているか実感した。
即興楽団の音に己のヴァイオリンの音を重ねる。支えようとしてくれる音、並ぼうとしてくれる音。どの音も皆、ひとつの楽曲を完成させるために奏でられている。
(……もう、限界よね)
己の所属する楽団に比べ、練度としてはどうしようもなく劣るものの、音の奏で易さはこちらの即興楽団が勝った。
互いに互いを貶めるために奏でられる音楽。個人個人の技術が高度であっても決してひとつに重ならない心。まとまらない音をそれでもなんとかギリギリのところで音楽としてまとめあげては来たが、それが一年に達そうとしている今、真瞭の心身は疲弊しきっている。
(もう限界よ……)
気を抜けば蹲てしまいそうになるのは、けれど所属している楽団だけが原因ではない。そのこと以上に心身に堪えているのは、親友の深倉理紗子のこと。
最初は小さな、きっとほんの小さな行き違いだった。互いの胸に生まれたわだかまりを解けぬまま、心を開きぶつかり合うことが出来ずにいるうちに、ふたりの心の間に開いた亀裂は修復不可能なまでに深く大きくなってしまった。
春が過ぎて夏が訪れても、傷は癒えていない。
(人付き合いは得意な方、のはずなのにね)
三十代も間近であるのに、中学以来の親友との今回の関係修復だけは、不協和音が深刻であるだけに上手く出来ない。
旧知の人が今回の演奏の仕事を斡旋してくれたのは、ふさぎ込む己を慮ってのことなのだろう。それを理解しているからこそ、真瞭は即興楽団の人々に対し表向きは出来る限り明るくフレンドリーに振る舞っている。そのつもりでいる。
少なくとも、音楽を奏でている間は楽曲の世界の中に身を任せていられる。着飾った男女で華やぐダンスホールに相応しく選曲は明るく屈託のないものが多い。今はそれがとてもありがたかった。
亜麻色の髪の乙女。
ユーモレスク。
手に手を取り合い優雅に舞う人々。壁の花と化しながらもどこか楽し気に誘う手を待つ女達。タキシードで身を包み背筋を伸ばして歩く男達。初々しい仕草で舞いながら親し気な微笑みを交わし合う少女たち。誰も彼もが皆、煌びやかな空気を纏わせさざめいている。
予定されていたソロの曲を弾き終え、真瞭は上品なブルードレスの衣装で一礼をする。背後に控えていた即興楽団の人々から送られる温かな拍手にほんの一瞬黒く大きな瞳が一層大きくなった。淡い微笑みを唇に浮かべながらもう一度、今度は即興楽団の人々に向けて一礼する。
舞台袖に引っ込む。お疲れさま、と声を掛けてくれる年配の演奏家に丁寧に頭を下げ、少しばかりの休憩時間を取らせてもらう。
控室でヴァイオリンを仕舞う。同じように休憩に入った楽団の人々と少し言葉を交わしてから、外の空気を吸いに甲板に出る。
己の身体でありながら、己の身体でないような気がした。他人と和やかに話しながら、微笑んでいるのが己ではないような気がした。
甲板に出た途端、銀盆を捧げ持ったボーイにカクテルのグラスを恭しく手渡された。薄い硝子の縁に唇をつけ、青いカクテルを僅かに含む。視線を伸ばせば、晴れ渡る星空の下、幾つもつり下げられたランプの光を浴びてドレスアップした人々が和やかに笑いさざめいている。
軽やかなパーティで賑わう甲板に背を向ける。手すりに身をもたせかけ、微かに吹き付ける潮風に冷たい頬をさらす。
(りさちんは今ごろ、何してるのかな？)
船上の光をきらきらと跳ねさせる海をぼんやりと眺めて、寝子島病院に内科医として勤める親友のことをぼんやりと思う。
勤務医として今日も多忙なのか。
それとも休みなのか。
休みであるなら、今日の一日をどう過ごしているのか。
考えたところでどうにもならない。考えているだけでは、どうにもならない。
(壊れたかけらは、どうやったらつなぎ合わせられるのだろう？)
疲弊しきった心身では、今は考えることしか出来ない。
絶え間なく波を揺らす海を眺め、毒を煽るようにカクテルを喉に流し込む。アルコールに喉と胃を焼かせながら海に背を向ける。華やぐ人々に背を向ける。控室に戻り、ヴァイオリンを手にダンスホールに戻る。
今はただ、無心に音楽を奏でていたかった。
華麗なる大円舞曲。
スケーターズワルツ。
ヴァイオリニストとして招かれた豪華客船のダンスホールで、深林 真瞭は時に即興楽団で、時にソロで、楽曲を披露している。
普段、コンサートマスターとして所属している楽団とは違う、互いに慣れないながらも楽しい音楽を奏でようとする人々の音の中に混ざるのはとても心地が良かった。心地よい、と感じることで、普段己があの楽団の中で如何に神経を疲弊させているか実感した。
即興楽団の音に己のヴァイオリンの音を重ねる。支えようとしてくれる音、並ぼうとしてくれる音。どの音も皆、ひとつの楽曲を完成させるために奏でられている。
(……もう、限界よね)
己の所属する楽団に比べ、練度としてはどうしようもなく劣るものの、音の奏で易さはこちらの即興楽団が勝った。
互いに互いを貶めるために奏でられる音楽。個人個人の技術が高度であっても決してひとつに重ならない心。まとまらない音をそれでもなんとかギリギリのところで音楽としてまとめあげては来たが、それが一年に達そうとしている今、真瞭の心身は疲弊しきっている。
(もう限界よ……)
気を抜けば蹲てしまいそうになるのは、けれど所属している楽団だけが原因ではない。そのこと以上に心身に堪えているのは、親友の深倉理紗子のこと。
最初は小さな、きっとほんの小さな行き違いだった。互いの胸に生まれたわだかまりを解けぬまま、心を開きぶつかり合うことが出来ずにいるうちに、ふたりの心の間に開いた亀裂は修復不可能なまでに深く大きくなってしまった。
春が過ぎて夏が訪れても、傷は癒えていない。
(人付き合いは得意な方、のはずなのにね)
三十代も間近であるのに、中学以来の親友との今回の関係修復だけは、不協和音が深刻であるだけに上手く出来ない。
旧知の人が今回の演奏の仕事を斡旋してくれたのは、ふさぎ込む己を慮ってのことなのだろう。それを理解しているからこそ、真瞭は即興楽団の人々に対し表向きは出来る限り明るくフレンドリーに振る舞っている。そのつもりでいる。
少なくとも、音楽を奏でている間は楽曲の世界の中に身を任せていられる。着飾った男女で華やぐダンスホールに相応しく選曲は明るく屈託のないものが多い。今はそれがとてもありがたかった。
亜麻色の髪の乙女。
ユーモレスク。
手に手を取り合い優雅に舞う人々。壁の花と化しながらもどこか楽し気に誘う手を待つ女達。タキシードで身を包み背筋を伸ばして歩く男達。初々しい仕草で舞いながら親し気な微笑みを交わし合う少女たち。誰も彼もが皆、煌びやかな空気を纏わせさざめいている。
予定されていたソロの曲を弾き終え、真瞭は上品なブルードレスの衣装で一礼をする。背後に控えていた即興楽団の人々から送られる温かな拍手にほんの一瞬黒く大きな瞳が一層大きくなった。淡い微笑みを唇に浮かべながらもう一度、今度は即興楽団の人々に向けて一礼する。
舞台袖に引っ込む。お疲れさま、と声を掛けてくれる年配の演奏家に丁寧に頭を下げ、少しばかりの休憩時間を取らせてもらう。
控室でヴァイオリンを仕舞う。同じように休憩に入った楽団の人々と少し言葉を交わしてから、外の空気を吸いに甲板に出る。
己の身体でありながら、己の身体でないような気がした。他人と和やかに話しながら、微笑んでいるのが己ではないような気がした。
甲板に出た途端、銀盆を捧げ持ったボーイにカクテルのグラスを恭しく手渡された。薄い硝子の縁に唇をつけ、青いカクテルを僅かに含む。視線を伸ばせば、晴れ渡る星空の下、幾つもつり下げられたランプの光を浴びてドレスアップした人々が和やかに笑いさざめいている。
軽やかなパーティで賑わう甲板に背を向ける。手すりに身をもたせかけ、微かに吹き付ける潮風に冷たい頬をさらす。
(りさちんは今ごろ、何してるのかな？)
船上の光をきらきらと跳ねさせる海をぼんやりと眺めて、寝子島病院に内科医として勤める親友のことをぼんやりと思う。
勤務医として今日も多忙なのか。
それとも休みなのか。
休みであるなら、今日の一日をどう過ごしているのか。
考えたところでどうにもならない。考えているだけでは、どうにもならない。
(壊れたかけらは、どうやったらつなぎ合わせられるのだろう？)
疲弊しきった心身では、今は考えることしか出来ない。
絶え間なく波を揺らす海を眺め、毒を煽るようにカクテルを喉に流し込む。アルコールに喉と胃を焼かせながら海に背を向ける。華やぐ人々に背を向ける。控室に戻り、ヴァイオリンを手にダンスホールに戻る。
今はただ、無心に音楽を奏でていたかった。
シナリオ
シナリオデータ
シナリオスケジュール
- シナリオガイド公開日
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- 2019年03月28日
- 参加申し込みの期限
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- 2019年04月04日 11時00分
- アクション投稿の期限
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- 2019年04月04日 11時00分
