伊豆で泳ごう！　夏の臨海学校！｜リアクション

伊豆で泳ごう！　夏の臨海学校！

　そんなこんなでBBQの時間も過ぎていく。片付けを終えた理緒は握りこぶしをぐっと天に伸ばし、すぅっと息を吸い込んで声を張り上げた。

「よっし、食べた後は運動ね！」
「運動運動―、理緒ちゃん、何する？」

　うーん、と理緒は考える素振りを見せると、視界の隅に入ったスイカにびびっとインスピレーションを刺激される。彼女は紗月に向き直ると、

「ウォーミングアップにスイカ割りはどう？」

　と言い、スイカを手に取った。紗月も異論はないのかこくこくと頷いて、あれよあれよとスイカ割りが始まった。最初は理緒の番ということで、目隠しをされた彼女は紗月の誘導に従……っているはずだが、なぜだかふらふらと見当違いの方向へ棒を振りかぶる。

「ここね！」

　威勢よく叫ぶものの、手ごたえがないことに理緒もやっと首を傾げた。

「……あれ？」

　その様を見て紗月は内心ため息を吐きつつ、なんだか楽しそうな理緒の姿にまぁいいか、と口を閉ざした。

「まぁいっか！　交代しましょ！」

　そう言って理緒は笑いながら、目隠しと棒を紗月に渡す。そうしていると、私服に着替えた葉月が彼女たちの後ろに陣取った。

「何？　スケッチ？」
「……そう」
「じゃあしっかり描いてね、紗月がスイカ割り成功させるとこ！」

　葉月はスケッチが出来ればそれでいいのか、理緒の惚気交じりのそれにもこくりと頷くだけである。葉月はスケッチブックを開くと、辺りの景色とともにスイカ割りに興じる紗月の姿と、それを誘導する理緒の姿を色鉛筆でざっくりと描きだした。波が足元を洗う。葉月はその冷たさに瞳を細めつつ、気の向くままスケッチを続けた。
　そうこうしているうちに、紗月はぱっかーん！　とスイカを割る。周囲の生徒がざわめく中、なぜか本人よりも先に理緒が歓声を上げ、勝ち誇った笑みを浮かべた。

「やった！　あたしの誘導のおかげね！」
「そうだねぇ」

　が、当事者である紗月はどこかのんびりした調子で割れたスイカを眺めていた。

　スイカ割りも終わったところで、さてどうしようと二人が考え始めたとき、ビーチボールを抱えた桜が通りかかる。

「あっ、貴方は……」
「一緒にやりましょ！」

　そうして始まったビーチバレーは白熱し、結局理緒＆桜チームの勝利で終わった。理緒、桜、紗月、女生徒の四人は砂浜に寝ころび、疲れた身体を癒す。

「あー、疲れた」

　そんな理緒を心配してか、紗月は起き上がると水の入ったペットボトルを差し出した。

「理緒ちゃん、大丈夫？」
「ん、なんで？」
「無理してないか不安になっちゃった」

　理緒はペットボトルを受け取ると、紗月を心配させないと再びにっと笑う。

「大丈夫！　ちょうど受験勉強と仕事でストレスたまってたんだよね」

　そっか。紗月は呟くと、それ以上追及せずにただただ笑みを返すことにした。口に含んだ水は冷たく、不安も暑さも飲み込むにはちょうどよかった。

「おおー……」

　一日目も夜に差し掛かり、宿に戻った桜は目の前に広がる光景に目を輝かせる。地元で採れる海産物をふんだんに使用した定食は、桜の舌を満足させた。

「すみません、お替りお願いします！」

　彼女が思わずおかわりすると、それにつられた生徒たちがぞろぞろとおかわりを申し出る。主人である老夫婦はその光景に朗らかな笑みを返しながら、彼らのおかわりをせっせと運びだした。
　そうして、騒がしい夜とともに臨海学校一日目は過ぎて行った。

このページにイラストを設定する