緑の進撃・猫鳴館の乱｜リアクション

緑の進撃・猫鳴館の乱

「ほれ、おまちどう。足りるか？」
　庚が野菜炒めの大皿をテーブルに置き、食事をとっていた者達から歓声が上がる。美味しそうにそれを食べる面々を見、庚も漸く安堵の息をつくのであった。その様子にマウルも小さく笑って呟く。
「おいしい。思いっきり動いたあとの食事は、いいな」
　
　その頃。植木鉢に植えられたウツボカズラを見、こっそりと歩み寄ろうとする銀髪の青年が一人。彼の手に握られているのは薄めていない除草剤である。
（神魂が抜けたとはいえ、他人に危害を加える可能性がある存在を放っておく訳にもいかねぇんだ）
　お前が悪いわけじゃないんだが……とそれを打ち込もうとした時。人の気配を覚えて物陰に隠れる。そこへやって来たのは椿美咲紀と旅鴉月詠だった。美咲紀はウツボカズラの剪定と挿し木の元を貰うため、月詠はウツボカズラをスケッチする為である。
「ちょっと痛い思いをしたけど、もう大丈夫よ。いま、かっこよくしてあげるわね」
「その辺りを切るとちょうどいいかもしれない」
　そんな会話が聞こえてくる。チョキチョキと小切れ良い音を立てて動くハサミを見つめ、彼は内心で舌打ちしつつこっそりとその場を後にする。
　暫くして再び向かったのものの、ウツボカズラの植木鉢は別の場所へ移されていた。枯らす事ができなかった事を危惧しながらも、しかたなく猫鳴館から去るのだった。
　そんなことも知らず、月詠は騒動を知る人物から話を聞きつつ、ウツボカズラの絵を書いていく。そうしながら、ふと考えたのは自体が収拾つかなかった場合のことだった。
（閉じ込める、という手もあったが、これでよかったのかもしれない）
　彼女のろっこん『絵空事』は視認した『動物以外』の物を絵に閉じ込めるもの。動いていたウツボカズラは封印できるのか、ふと疑問に思いながら彼女は絵を描き続けた。

　食堂の外。そこから聞こえてくる声に、いいなと龍八は少し満ち足りた気分を味わっていた。が、ふと龍八が口を開く。
「そうだ、伝えておいて欲しい事があった」
「なんじゃ？」
「謎の美女さんによろしく言っておいてくれ。『大丈夫……望む『普通』は壊れることはない』、と」
　そして、寂しがり屋だから謎の美女を支えてやってくれ、とも伝える。それに「えっ？」といいなが振り返るも、その時には既に龍八の姿は無かった。あちこち見渡したものの、どこにもいない。いいなはため息をつくと、虚空へ言い放つ。
「儂もお主に言いたい事があった。草薙、お主の目……べっこうあめみたいじゃの！」
　透き通っているのに、食べると口の中を鋭く切る。それが草薙に似ていると思ったからじゃ、と……いいなはどこか遠い目で見つめていた。
　と、その傍を没が走っていき、いいなとぶつかってしまった。その拍子にポケットからカエル模様のハンカチが落ち、没が持っていたお菓子の袋に入る。それにいいなも没も気づいていない。
「大丈夫かの？」
　その問いに、没は頷いて答えると、てってけてってけ、廊下を走っていった。

（なんでだろう、すっごくさみしい予感がする）
　没は、猫鳴館を出ようとする龍八の服を引っ張った。何となくそこにいそうで、ろっこん『神出鬼没』で先回りしたのだ。急に現れた没に龍八は目を丸くしたが、没がお菓子の袋を渡すと……僅かに目を細めた。
「餞か？　……ありがとな」
「？　……草薙？」
　龍八はそういうと、今度こそそこから立ち去った。その背中を、没はただただ見送るしかなかった。

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