夏夜に咲く桜｜リアクション

夏夜に咲く桜

(こんな時期に桜が？　狂い咲きってやつなのかな？)

　それは最近噂されている夏の夜に咲くという桜について聞いた時に小山内海が思った事だ。
　狂い咲きとは、花が季節外れに咲く事を指した言葉。狂い花、返り咲きとも言われる。

　しかし、そこで海は夜にしか見れないという情報を思い出す。そう、ただの狂い咲きならばそんな事は有り得ない。つまり、それとは違う別の何かという可能性が高いだろう。
　そうなると、神魂やろっこん関係である可能性がとても高い、という事になる。

（まぁ、それはどっちでもいいや）

　だが、海はそれについては深く考えなくても問題ないと考えていた。
　何故なら、ここまでその桜について調べてみた限りどうも害のあるものではないようだと解ったからだ。もし、そういったものならば既に何かしらの報告がある筈だが、それがないのである。
　それどころか、調べて出てくるのは凄く綺麗であるとかそういうものばかりだ。

（すっごく綺麗だって聞くし、これは一度見に行かないとだね）

　そうして海は桜を見に行く為の準備を始めるのであった。

（ふぅ、結構歩いたね）

　目的の桜のある場所は寝子温泉の近くとは解ったものの明確な位置ははっきりとはしなかった。歩いているといつの間にかついていたという情報だけが手に入るのだ。
　それ故に海は念の為、山の中をある程度歩くぐらいのつもりで準備をして登山道入口から歩いていたのだ。

（さて、そろそろ寝子温泉の近くに着くと思うんだけど……ん、何か急に開けてる？　こんなところで開けてる場所なんてなかった筈……）

　海が不思議そうに首を傾げていると、それは突然視界に現れた。

（う、うわーすっごーい！）

　肌に感じるのは夏の夜の気温。だと言うのにそこにはまるで輝いてるかのように桜の花びらが風に舞っていた。
　その奥にはこれでもかと言うほどに存在感を感じる満開の巨大な桜の木。まるでそれはこの世のものとは思えない程であった。
　あまりの衝撃に海は大きく目を見開き、驚きを露わにしていた。

（わ、わ、こんなに大きい桜初めて見たよ。こんな桜もあるんだねぇ。月明かりに照らされて……ほんと綺麗）

　幻想的な光景に暫し桜に見惚れる海。

（っと、うん、ちょっと季節外れだけど、お花見、しようかな）

　暫くした後、ふと再起動すると海はレジャーシートを広げて本格的にお花見の準備を始める。
　桜の花見をする為に、お茶やらお団子やらを用意して来ているのだ。

（はぁ、風流だなぁ）

　レジャーシートの上に座って、お茶と団子を供にまったりとしながら空に舞う桜の花びらを眺める海。
　先程までは桜のあまりのインパクトに海も気付いていなかったが、こうして落ち着いた今となってはここには桜だけでなく様々な花が咲いている事に気付いた。
　
　しかも、桜のように明らかに時期ではないものまで花を大きく咲かせて混ざっている。
　季節感がバラバラだと言うのに、どの花も綺麗に咲き誇っているその様子はとても幻想的で。見る者を飽きさせない。

（うん、この景色はやっぱりスケッチしないと）

　この景色を心に浮かんだ衝撃とともに絵に残そう。
　そう決意して海はスケッチを描く為のスケッチブックを広げて、筆を取る。
　きっとこんな風景は、他では見る事が出来ないからと。

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