夏夜に咲く桜｜リアクション

夏夜に咲く桜

「デートしましょう！」
「……は？」

　新井晶の突然の誘いに遠藤健は思わず固まる。
　いきなり晶から電話で呼び出されて何の用かと思いながらも待ち合わせ場所へと向かったら、第一声がこれとなればこうもなるのは仕方ないだろう。

　因みに今日は学校ではないので晶は可愛い白のワンピースを着ているのだが、健はその姿の晶を見た事がある為にそこに関しての動揺は見受けられない。
　基本的に健はあまり細かい事を気にするタイプではなく、似合ってるのなら良いんじゃないか精神であった。

「うむ、新井。意味が解らんぞ！」
「そんなっ……ボクとは遊びだったのね……」
「何がっ！？　ていうか、それ、前にも聞いた覚えがあるぞ！」
「てへっ」

　片目を瞑りながら舌をぺろりと出す晶だが、それがまた似合っているところが始末に負えない。

「良いから、説明、しろっ」
「いひゃい、いひゃいですよ、遠藤君っ」

　健は男子とは思えないもちもちしたほっぺたをびろーんと伸ばしながら説明を求める。
　晶は何故か健に会う度に似たような事をしてくるので、健としても既に対応に慣れたものだった。

「季節外れの桜が咲いてるとか聞いたのですよ。それで見に行こうかというお誘いなのです。温泉も近くにあるそうなので桜見終わったら入りましょう……覗いちゃいやですよ？」
「同じ男なのに覗くも何もないわっ！　水ぶっかけるぞ！」
「温泉で暴れたらいーけないんだ、いけないんだー」
「……氷風呂に入れてやろうか」

　ワチャワチャと騒ぎながらも異論があるわけではない健は、何だかんだで晶と共にその桜があるところへと向かう事にするのであった。

「いやーきれいな桜ですねぇ……桜の咲いているのに体中べとべとですが」
「そりゃ夏だからな……。この桜が普通ではないのであって、暑さがなくなるわけではないしなぁ」

　桜が目の前にあるというのに暑すぎる事に文句を言う晶だが、そもそも真夏に桜が咲いている事がおかしいのであって暑い事はおかしくはないのだ。
　勿論、晶とてそれは理解しているがそれでも汗で服が張り付く感触に文句の一つも言いたくなっている。

「ところで……この前妙な夢を見たのですよ。なぜか砂浜で遠藤君とデートしててですね？　自分は爆乳女の子になってるんですよ」
「ほ、ほう？」

　それはちょっとした悪戯のつもりの引っ掛け。

「それで透け透け白スクを着てたんですが発情した遠藤君に襲われて処女喪失を……痛かったです……」
「ちょっと待てー！　んな事はしてないだろうが！　捏造、ダメ、絶対！」

　照れ照れの真っ赤な表情を作りながらそう言う晶に対して、最初は素知らぬフリをしようとした健も思わず勢い良くツッコミを入れてしまう。

「ふむふむ。つまり、遠藤君も同じ夢を見たんですねー？」
「はっ、しまった！」

　にんまりとする晶の表情を見て引っ掛けだった事に気付く健。
　けしてアホの子ではないし気も回りはするのだが、要所要所で単純なところがある健はこういったところではどうにも晶と相性が悪い。

「ねー、遠藤君。爆乳女の子な私はどうでしたー？」
「胸が大きい事は良い事……って、何言わせんだっ！？」
「ふふっ。もし間違って女の子になる機会があったら遠藤君におっぱい見せてあげるから！」
「お前、俺を何だと思ってんだ！？」

　果たして相性が良いのか悪いのか？
　賑やかな会話をしながら真夏の桜を楽しんだ二人は、そのまま温泉へと向かうのであった。

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