【星幽塔】第六階層　ウィッチパーティーへようこそ｜リアクション

【星幽塔】第六階層　ウィッチパーティーへようこそ

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　銀の使い魔の皿回しを眺めているうちに、ティオレ・ユリウェイスはふと気がついた。
　なんていうか、体力が有り余ってるような感じがする。雑に走り回ったりしたくなるような、そういう感覚。
　さっきのクッキーを食べてからのような気がして、通りがかった月詠に聞いてみることにした。
　答えて曰く、
「ああ、あれはマッスルクッキーだよ」
　マッスルクッキー。それは力がもりもり沸いてくる気がするすごいクッキーだ。
「ねえ、なんでそれお茶会に持ってこようと思ったのか、聞いていい？」
　お茶会よりはむしろ、冒険の携帯食料向きじゃないかと思うティオレであった。
　しかし困った。
　本業は冒険稼業――というか盗賊のティオレは、そも体力はあるほうだ。
　力がもりもり沸いてくるマッスルクッキーがそこに加わると、どうなるか。
　そう、元気が有り余る。
　というか、ちょっと持て余している。
「でしたら、どうでしょう。何か、披露されてみては」
　すると苦笑を浮かべたフローレンスが、そんなことを言い出した。
　銀の使い魔も皿回しを止めて、「こっち来る？」とでも言いたげなポーズをしている。
　少しだけ思案して、ティオレはその提案に乗ることにした。
　踊りの一つも披露すれば、気分も落ち着くだろうから。
「わかったよ。じゃあ、ゴーレムに適当に演奏させてもらえる？」
　演奏が一旦止まって、アップテンポな曲へと切り替わる。急な変更だろうに、対応できるゴーレムたちの器用さにはティオレも正直感心した。
　それじゃ、と音楽に合わせて即興で数曲分の踊りを披露。
　軽快でアクロバットな踊りに、見ている皆からは歓声があがるのだった。

　一通り踊り終えてテーブルに戻ると、今度はなんかもうお腹が減って仕方なかった。
　宝石みたいな砂糖菓子に、フィナンシェ、タルト、リリエルとメリィのフルーツケーキに――と、手近なところにあるお菓子を片っ端からつまみまくる。
　そしてそれを、お茶でぐいっと流し込む。
「お姉さん、あんまり急いで食べるとつまっちゃうよぉ？」
　豪快な食べっぷり飲みっぷりへ心配げな視線を向ける曖浜瑠樹に、「大丈夫」と返してクッキーをかじる。
「そうならないよう加減はしてるか――ら？」
　ぽん、と煙に包まれる身体。
　そして訪れる違和感。胸のあたりが軽いと言うか――平べったくなった気がする。
　よくよく見れば、手や腕もなんだかガッシリしている。
　っていうか、男になっていた。
　ゴーレムがすっと差し出した鏡を見ると、ワイルド系のイケメンがそこに居る。
　……どうやら、性別の変わるメタモルクッキーを気づかないうちに食べてしまったらしい。
「これ、ちゃんと戻る？」
「時間が経てば、自然に戻りますから」
　フローレンスの言葉を聞いて、ティオレは平べったくなった胸をなでおろす。
　その隣で、瑠樹の身体がまた煙に包まれた。ティオレと同じクッキーを食べたらしく、こちらは女の子へと変身。
　確かめるように頬をぺちぺち触って、
「女の子にー……久々になったねぇ？」
「……久々、か」
　落ち着いた瑠樹の様子に、なんともいえない表情になるティオレ。
　ティオレにとっては、性別転換は初めてだ。
　男になるのは悪くはないが、もうずいぶん長いこと女をやってきた身には、なんとも落ち着かない経験だった。